日弁連リーガル・アクセス・センターが複数の保険会社等と協定して運営する弁護士費用保険(権利保護保険)のことである。自動車の任意保険に特約でつけられる弁護士特約はそれなりに普及しているが、LAC保険は、交通事故被害は勿論、暴行被害、盗難被害等の偶然の事情による被害にも対応し(各社毎の商品の特徴で差がある)、更に近時は新商品として相続問題、人格権侵害の案件等にも対応できるものが発売されるようである(報道による)。

例えば全く同一事故で、被害者の休業補償を請求する案件を考えれば明らかなように、被害者の年収が10倍違おうと事件の難易度は殆ど変わらない、といえる。しかし請求金額が10倍違えば、弁護士費用は全く違ってくる。逆説的だが、ある程度のところまでは、請求金額がそこそこ多い方が(つまり被害がそこそこ多い方が)、割に合う、のである。

30万円を請求する事件、を考えると、弁護士費用は着手金8%・報酬16%とすると、実費・税を除き7.2万円となるが、旧日弁連基準で最低着手金10万円という概念があり、これを今でも採用する弁護士は多いので、実際には着手金10万円、無事30万円を回収したとして成功報酬4.8万円で、ほぼ半額が弁護士費用に消える。これに諸々の調査費用で数万円がかかれば、残るのは10万円を切る。勿論、勝てるとは限らないし、相手が無資力かも知れない。こちら側にも弱点があり8割程度で手を打つ方が賢明かも知れない・・・となると、依頼しない方がましなのでは、というところまでくる。

これがLAC保険であれば、弁護士費用も実費も全て保険で賄われるので、保険料の負担がどれほどかにもよるが、当該事件限りで見れば全く依頼に躊躇いはなくなろう(経済的負担という意味では。心理的負担などはまた別問題である。)。

かたや弁護士側から見ても、上記30万円の事件では、どれほど苦労しても、実入りは14.8万円である。事務所経営に月々150万円が必要なら、この事件に避ける労力は誤解を恐れず言えば2~3日分である計算になる(これは議論のための単純化した計算であり、我々がそのような目で、少額案件を軽んじているわけではないので誤解なきように願いたい)。ところがLAC保険であれば、「タイムチャージ」による受任も可能で、この場合、費やした時間×2万円が弁護士費用となる(上限はあるし、一般的には60万円を超えてきたところで保険会社との協議が必要にもなってくるから、青天井というわけではない)。例えば、実例として、現地まで片道4時間の建物が舞台の建築瑕疵案件があり、これは請求金額はどうしても百数十万円止まりの事件であるが、現地見分を2回行うだけで軽く20時間を要する。タイムチャージ基準なら×2万円=40万円である。これを依頼者に負担させるのはなんぼなんでも・・・というところだが、保険であれば、まぁ、いいわけである。

かくして、被害金額としては少額止まりであったり、作業量に比して相対的に少額の案件でも、心おきなく弁護士に依頼し、専門家の助力を得て自身の権利保護を行えるLAC保険は、お勧めなのである。案件によっては、「あ、相手方は弁護士保険を使っているな。この金額で弁護士を立てていきなり訴訟に持ち込むとは・・。」と感じることもあるが、それを訴訟社会を助長するものを批判するのも早計であろう。経済的負担を理由に弁護士利用を断念せざるを得ないというのは、お金がないから医者にかかれない、というのと同義であり、それ自体が不健全である。

(弁護士 金岡)