本欄2025年2月17日の事件の経過報告である。
https://www.kanaoka-law.com/archives/1721
【1】
要旨、事実と異なる申告をして、提携先に被告人自身に関する虚偽の帳簿データ入力をさせた、という公訴事実について、私電磁的記録不正作出罪が成立するか、という争点であるが、一審判決(名古屋地裁刑事第3部合議)は、国会の論議に論及せず不正作出の規範成立すらしない有罪判決を強行し、本日、控訴審判決を迎えたが、結論、有罪であった。
主張が退けられている未確定の事案について、本欄に書くことは基本、流儀ではないが、それを承知で、今回、取り上げたい。
控訴審判決(名古屋高裁刑事第1部)は、まだ判決書を入手してないので、正確な再現ではないが、私電磁的記録不正作出罪について有形偽造に限定することは立法者の意思ではないと言い切った(国会の論議に論及しただけ地裁判決よりはマシではある)。
【2】
問題となる国会論議を正確に切り出すと次の通りである。
○小澤(克)委員 その点はわかりました。
次に、「不正ニ作リタル」という用語になっております。これがやや誤解を招きかねないようでございまして、伝統的な概念でいえば無形偽造を広く含むものではないかという趣旨の批判的な論文も拝見するわけでございます。先ほど坂上委員からも御質問がありましたとおり、会計処理のデータに脱税目的で権限のある者がわざと違った数字をインプットすることを含んでしまいはしないかというような論文を拝見するのですけれども、そういうことはない、これは伝統的な概念で言えば有形偽造のことを言うのである、このようにお聞きしてよろしいでしょうか。
○米澤説明員 ここで不正につくるという文言の意味でございますが、不正にと申しますのは、私どもの考えではつくり出す権限がないとか権限を乱用してつくるというふうな意味に理解いたしております。これは他の法令用語でもそういった趣旨のことを不正に云々というふうな用語で使っておるのが伝統的でございますので、それに倣ったわけでございますが、作成過程が違法だ、反社会的な違法性を持つというような感じで書いておるわけでございます。したがいまして、原則としては有形偽造を前提にいたしております。
ただ、少しつけ加えますが、例えば私どものような公務員が仮に公文書を作成します場合には、ありのままの内容のものを書く義務というのがあるわけでございます。したがいまして、作成者の立場、地位いかんによりましては、やはり真実の内容のものをつくらない限りは権限の乱用だと見なされる、権限の乱用に当たると理解される場面が出てくるかと思うわけでございます。したがいまして、不正作出罪の二項のところには従来の虚偽公文書作成罪に当たるようなものも入ってくるだろう。その意味では、いわゆる伝統的な意味における無形偽造は全く入らないんだという線切りにはならないかと思いますが、それは権限乱用だという事実がない限りは入らないというふうにお答えしてよろしいかと思います。
○小澤(克)委員 そうしますと、今つけ加えておっしゃられたことは、むしろ権限というメルクマールをいかに理解するかという問題であろうと思うのですね。権限の乱用や権限踰越についてこれをどう考えるか、何人も虚偽内容の文書を作成する権限などないと言ってしまえばすべて無形偽造ということはなくなってしまうわけでございますから、その判断の問題だろうというふうにお聞きしまして、基本的にはここの「不正ニ」というのは内容の虚偽性を言うのではなく、権限の有無を言うのである、このようにお聞きして間違いないでしょうか。
○米澤説明員 委員のお考えのとおり御理解いただいていいと思います。したがいまして、前の委員の方にも御説明しましたように、虚偽の会計帳簿を自営業者がつくってもそれは当たらないとお答えしているところであります。
【3】
以上のように、立法者の意思は、「原則としては有形偽造を前提」であるが、「ありのままの内容のものを書く義務」を負う名義人のような、「作成者の立場、地位いかんによりましては、やはり真実の内容のものをつくらない限りは権限の乱用だと見なされる、権限の乱用に当たると理解される場面」も例外的に不正作出に含める、というものである。
しかし後者の場合も、講学上は無権限扱いの冒用事例、つまり有形偽造に分類されているから、上記米澤説明員の付け足しを踏まえても、全ては有形偽造の範囲に収まり、私文書偽造の場合と私電磁的記録不正作出の場合とで、有形偽造前提の処罰範囲は異ならない。
これが弁護側の出した結論であった。
今回の高裁判決は、有形偽造に限定することは立法者の意思ではないと言い切ったが、上記【2】の国会議事録のどこをどう読めば、そのようないかがわしい結論にたどり着くのか、神経を疑わざるを得ない。
傍聴していた依頼者(もちろん法律には素人である)も、「無理矢理こじつけてますね」と笑うほどに、無理のある議論であったと思う。
この件は最高裁の判断を仰ぐことになる。
私電磁的記録不正作出罪の創設を機に処罰範囲が拡大されるのでは無いかと懸念が表明され、それはあたらないとされた立法過程に対し、40年越しに、裁判所が従う(憲法76条3項)姿勢を問われている。それはとりもなおさず、罪刑法定主義の体現であり、重要な営為である。
(弁護士 金岡)

















