少し時機を逸してしまったが、標記書籍(成文堂)を取り上げたい。
著者は現職判事である今井輝幸氏。
それだけで異色の書籍だと分かろう。
今井判事は、日野町事件の開始決定の裁判長として知られている他、韓国語に堪能で韓国の刑事司法を研究されていることで有名である。
おぼろげな記憶(正確さは保障しない)では、韓国で未決全部算入が判例となったことが本邦に紹介されたあたりから、そのお名前をよく耳にするようになった。
さて、本書は、標題だけ見ると韓国の刑事司法の研究書のように映るが、副題が「わが国の制度運用等に与える示唆」とされており、韓国の刑事手続電子化の動向を見据えて学ぶべき所を日本の刑事司法に取り込みたい主張の書籍・・と思いきや、今井判事の過去の研究論文のおさらいに加え、(第5章)刑事手続電子化を契機とした裁判員制度の活性化や、(第7章)裁判員裁判における刺激証拠に案する運用、あたりでは、現職判事が現在の裁判実務に対し(やや批判的な)取り組み、提言をされる等、一筋縄ではいかない複雑な構成である。
言葉を選ばず言えば、話題がとっ散らかっているので決して読みやすい書籍ではないが、通読することが要求されているわけではないので、目次から関心部分に飛べば、そこまで読みづらさも感じないかもしれない。
以下、思いつくままに少し、内容を取り上げたい。
【1】デジタル完結と迅速化
韓国では、内部決済、裁判書の作成、公判調書及び証拠目録の作成、法廷録音、判決書送達、身体拘束にかかる裁判あたりは「デジタル完結」されており(18頁以下)、それにより例えば交通事件の略式手続に要する日数が半減に近く短縮される(10頁)などの効果が上がっているとのこと。その多くは日本でもそうなるだろうとの見通しである。
裁判所内部の事務はさておいて、検察庁の証拠開示作業などでも、電子データを横断検索できれば開示証拠の検索やマスキング処理に相当、有効活用できるだろうことから、検察庁における開示証拠の探索、マスキング処理を踏まえた開示時間も、相当短縮できようものであり(本書中にも同様の指摘がある)、警察段階で作成されたものが間違いなく機械的網羅的に電子化されて検察庁に送られるという前提に立つなら(本書にはこのような視点はない)、有用であろう。
尤も、警察段階の取り調べの録音録画すら、機材がないなどと言って消極な本邦である。警察段階で作成されたものが間違いなく機械的網羅的に電子化されて検察庁に送られるという前提が満たされるのは夢物語であり、この前提がなければ、結局、「こういう捜査をやっているはず」「こういう資料があるはず」という、整理手続の最たる遅延原因は解消しないだろうが。
【2】AIによる判断
本書で最も驚かされた一つは、韓国が(あくまで人間を中心としつつの)AIによる司法判断を目指し「司法人工知能審議官」職を新設しているということである。データ学習やモデル運用による公平かつ平等な裁判に資するという想定らしい(45頁以下)。
確かに、裁判官による、ブレ幅の酷い判決に遭遇するたびに(ごく駆け出しの頃であるが、地裁と高裁で「確かに」と「しかし」を入れ替えただけの逆転無罪判決を得たことがある)、AIの方がよっぽどまし、と毒づいたことはあるが、果たしてどこまでをAIの領域にするのだろうか、また、モデル学習すべき素材をどうやって選定するのか(例えばの話、日野町事件の有罪論理をAIに学習させるのだろうか?させないのだろうか?)、議論は尽きないと思われ、所詮は夢物語と思っていた。
量刑判断であっても(量刑判断を軽んじる趣旨ではない)、完璧な量刑基準表を作成し、かつ、適切な事実認定が出来れば、(そこまでやれていれば人力で入力すれば済むような気もするが)AIが瞬時に量刑幅を割り出してくれるだろうから、作業時間は一定短縮されるし、簡明な議論が可能になるだろうが・・そもそも「完璧な量刑基準表」をどうやって作るのかで、何十年かかっても議論は進まないのではないか、とも思わされる。
韓国が上記のような司法人工知能審議官を受け入れる素地は、司法に対する不信(生身の裁判官よりAIの方が公平だという意味であろう)や商用AIの定着が土台にあると言うが、日本に、司法人工知能審議官の導入を妨げるほどの司法に対する信頼があるとも思わないので、そうであれば導入可能そうに見えるけれども、前記の通り私の感想は全く逆の結論である。
韓国との馬力の違いは良し悪しであり、ここで論じるつもりはないが、韓国における司法人工知能審議官の活躍ぶりは、是非、後学のために知りたいものである(本書によれば2030年からの稼働が目指されている由)。
長くなったので、続きは次稿に譲る。
(2/2・完に続く)
(弁護士 金岡)

















