【3】整理手続への提言部分
本書で個人的に最も関心を持ったのは、第5章の「刑事手続電子化を契機とした裁判員制度の活性化」である。特に第5「公判前整理手続の期間短縮のための方策」については、ケースセオリーを確立するための準備作業として不可欠とはいえ軽く年単位を要する実務の現状は当然、改善されなければならないと考えており、そのためにも意見交換が必要な部分である。

筆者は、裁判の迅速化に係る検証結果の公表(第11回)(この検証報告書については、本欄本年1月4日付けで取り上げた)を念頭に、電子化により、証拠開示や証拠の調整については迅速化を図り得ること、特に弁護人の予定主張明示の在り方等は、現代的な実践を確立すべきこと等を論じておられるが(126頁以下)、後者は電子化とは関係ないが興味深い議論が展開されている。

前者、電子化による証拠開示等の促進は、検索、一括処理、画面上での処理などの電子化の旨味が活用できそうであることに異論はない。
ただ、前稿で指摘したとおり、「それが全てである」との保障があることが絶対条件であり、それ抜きには、電子化の効率化の恩恵は限定的なものに止まるだろう。そして、現実問題、検察官が後から後から、探したらありました的な対応をしている現状がある以上は、弁護人の、検察官の証拠開示に対する信頼感は信頼しろという方が無理な程度でしかないので、電子化は根本的な解決策にはならないだろう。
また、証拠の検討をAI任せに出来ない以上、証拠検討に要する時間は寧ろ、増えている。罪名が重く共犯者が複数の事件となると、結構な数の録音録画を前にどうしようもなくなるほどである。AIによる自動反訳を作成するのが一つの突破口かもしれないが、まだまだの感がある。
裁判官目線では、このあたりは実感が持てないかもしれないが、現場はかなり深刻であり、寧ろ認識の隔たりを感じるところであった。

後者、弁護人の予定主張明示の在り方を中心とした争点整理については、「ほどほどの時期に、ほどほどの具体性」論を、興味深く読んだ。
筆者の実践においても、「何を主張するのかではなく、主張しないことは何か」を念頭に争点整理を進めた試みが紹介されているが(133頁まで)、この辺りは実に示唆に富む内容である。
ケースセオリーを確立し、不意打ちによる台無しを避けるために腐心した整理手続運営を目指す弁護人にとって、検察官の「主張しないことは何か」をはっきりさせることは非常に重要である。検察官も(弾劾を除けば)弁護人が「それは主張しない」点を確認することに留意するだろう。それを中心に、その余は「ほどほど」にすれば、整理手続の円滑さ阻害要因はかなり減少するのではと頷けるところがあった。
(なお、本書131頁の脚注には、本欄の記事、及び同じく愛弁の鬼頭治雄弁護士の事務所ブログ記事を援用して、弁護人の立場から裁判書は予定主張に期待しすぎではないかと指摘した内容が紹介されている)

【4】まとめ
本書の内容は以上の紹介に尽きるものではないが、前稿で触れたとおり、様々な話題が取り上げられ、また、逐一紹介が困難な韓国の刑事司法についても詳しく言及されている(ばかりか、台湾や中国の話題まで登場する)ので、これ以上は直接、読まれる方が良いだろう。

先を行く韓国の長所短所を見つつ、本邦に応用できる部分を応用するもよし、なかなか公に語られない裁判官の整理手続上の工夫に学ぶもよしであり、類を見ない面白さのある書籍であった。

(2/2・完)

(弁護士 金岡)