現在、参議院で審議されている改正刑訴法は、大ざっぱに要点をまとめれば、(1)裁判員対象事件及び検察独自案件について取り調べの全部録画を義務付ける一方で、(2)盗聴の拡大や、(3)司法取引の導入など、新たに捜査を「やりやすくする」手法を増やした内容である。近時の報道によれば、5月19日に参議院を通過する見通しという。

この法案は、もともと村木厚労事務次官事件を発端として冤罪防止のための取り調べの可視化が急務だというところから始まったが、取り調べをやりにくくするなら捜査を「やりやすくする」見返りが必要だという(筋違いの)反転攻勢を受け、盗聴の拡大や司法取引等の極めて問題性のある手法が追加されることとなり、その時点で話が違うという指摘が多くされ始めた。ちょっと検索すれば、冤罪防止とは逆行しているとか、「抜け穴だらけ」と批判する各紙社説などは複数、見つかる。

さて、日弁連は、上記の通り限られた事件のみとはいえ(村木事件は対象外になる)全部録画を義務付ける画期的な法案として、これへの支持を打ち出した。日弁連が盗聴や司法取引に賛成するとは何事かと、白い目で見られながらも、賛成姿勢を変えない。私は勿論、大反対だが、衆院を通過したあたりで(面目なくも後はずるずるいくだけだと)関心を喪失していた。

このほど、参議院法務委員会の議事録が公表され、本日現在4月21日の審議経過まで読めるのであるが、読んでいると、なかなか白熱している。得てして国会審議は、実務家からは的外れなことをやっている場合もあるのだが、今回の審議はなかなかに的を射たものがある。
特に琴線に触れた議論を2つ、紹介したい。

一つは、全部録画を義務付ける取り調べの範囲である。日弁連幹部によれば、
ア)対象事件で逮捕勾留中の被疑者を対象事件で取り調べる場合や、
イ)非対象事件で逮捕勾留中の被疑者を対象事件で取り調べる場合は勿論、
ウ)非対象事件で起訴後勾留中の被疑者を対象事件で取り調べる場合も、義務付け対象に含まれると説明されているが、4月21日の国会答弁で、法務大臣がこれを否定し、ウの場合は含まれない、と断じた。
つまり、別罪にこじつけて逮捕し、早々と起訴した上で(この場合、まずは2ヶ月の勾留が実現し、その後、一月ずつ更新され、保釈を取らない限り基本的に釈放されない)本命の対象事件でじっくり取り調べる、という場合、全部録画対象にはならないというのである。
もともと、身柄拘束前段階の取り調べが全部録画対象から外れるという時点で、この法案は底が抜けたも同然だったのだが(従って、賛成に回った日弁連はどうかしていると、私は思うのである)、更に、上記のように割とありがちな取り調べ類型も全部録画対象にならない可能性が大となる(因みに、対象事件の起訴後調べや、服役状態の人を逮捕勾留せず対象事件で取り調べる場合も、全部録画対象ではない)。
報道されている以上に、あちこちに穴が空いている欠陥立法と言うほかない。特に、立法に関わり、その上で上記ウが含まれるとしてきた日弁連は、目の前で法務大臣にこれを否定されたのに、まだ、賛成にしがみつくのだろうか。及ばずながら、私の所属する刑事弁護センターでも問題提起をしてみたところであるが、今日時点では「ほおかむり」されているなという印象である。

もう一つは、盗聴法改正により新設される、被傍受者への通知制度である。盗聴されたことを事後的に通知し、不服申立の機会などを与える趣旨のようだが、通知は、傍受記録が作成され、つまり、盗聴の狙いにかなった盗聴が実現したときに限定される。ということは、盗聴の狙いに適わなかった、つまり犯罪と無関係の会話が傍受されたような場合、通知は行われない。通知がなければ、傍受されたとは知りようもないから、(少なくとも結果論において)不当な傍受であったのに不服申立に及ぶきっかけが作られない。
不覚にも、こういう問題があるとは気付いていなかったが、大問題である。法務大臣は、裁判所には盗聴データが保管されるから、無関係の傍受を続ければ露見する、露見すると罰せられるから警察官はそんなことはやらない、と答弁を繰り返したが、馬鹿にするにも程があろう。ばれるからやらない、などという経験則はないし、組織ぐるみでの盗聴なら組織に守ってもらえると思うから、ますます、上記規制は働かない。そんなことは子どもでも分かろうに、と思う。

このような議論は、
http://online.sangiin.go.jp/kaigirok/daily/select0103/main.html
ここから閲覧できる(簡易閲覧で30日以内)。興味のある方は是非、通読して頂きたい。
末尾ながら、特に仁比聡平議員はよく勉強されており、うまく情報を引き出されていた。敬意を表したい。

(弁護士 金岡)