私は産経新聞の読者ではないが、関心の赴くままに主としてウェブ上で記事を閲覧することがある。
そして、その記事が余りに誤りに満ちていて嗤える、ということを何度も経験する。
一新聞に噛みついていてはきりが無いが、少々目に余る所の騒ぎではなくなっているので、当コラムで取り上げたい。件名にもあるとおり、もはや「誤報」とすら呼べない域である。

例えば、弁護士会が政治集団だと批判した一連の連載記事がある(現時点でもウェブ上で読める)。強制加入団体である弁護士会が政治色の強い決議をするのはおかしい、と言う論調である。
直接的に批判されている的は安保法案反対を巡る一連の日弁連の動きであるが、政治的にどう考えるにせよ、解釈改憲なる手法と、それを前提にした法律が憲法破壊であるという考え方は、法律家としては当然、取り上げざるを得ないだろう。また、手続論を離れても、憲法の平和主義と整合的に解釈し得ないというなら、また同断である。
これに対する産経新聞の批判は、政治運動だというものだが、社の方針と対立する方針だから感情的に批判しているようにしか読めない。挙げ句が、「大阪弁護士会所属のある弁護士は『少数派である左翼系の弁護士が日弁連や単位弁護士会を事実上仕切っている』と吐露する。多くの弁護士は日常業務に追われ、会の運営に無関心か、反体制的な活動を嫌って一定の距離を置く。一方で会務に熱心に取り組む少数派が組織の主導権を握り、最高意思決定機関である総会にも委任状を集めて大挙して出席、場を支配するというのだ。」という一文。現役弁護士として言わせてもらえば、そんな事実はどこにもない。繰り返されているのは寧ろ、東京・大阪の委任状集めだけで安定的に多数決が制されていくという現状である。

上記記事は本年4月始めに掲載されていた。
読んで余りのことに呆れたのだが、今更に取り上げたのは、共謀罪に関してまたぞろ、異常な記事を目にしたからである。

例の、共謀罪が一般人を対象とするかという問題に関し、野党の国会質疑をあざける記事が掲載されているが(本年5月15日付け)。勿論のこと、同紙は対象性を否定する。頂けないのはその内容である。
こんな風に書かれている。「これに対し、検察幹部の一人は『言葉遊びだ』と、ため息交じりで話す。告訴・告発が捜査機関に持ち込まれ受理されると、嫌疑の有無を確認することになる。嫌疑が不十分であったり、嫌疑が全くなかったりすれば、さまざまな事情を考慮して検察官が不起訴にし、具体的な嫌疑があれば、本格的な捜査に着手するという流れだ。検察幹部は『嫌疑があるかどうか確認するのも捜査と言うことがあるが、それは嫌疑を前提としないから実質的な捜査ではない』と指摘する。もし一般人がテロ等準備罪で告発されれば、一時的には被告発人として嫌疑の有無を確認することになる。だが、一般人である以上、それは容疑者としての捜査ではない。逮捕や家宅捜索などの強制捜査も捜査なら、嫌疑の有無を確認するだけでも捜査。同じ用語ではあるが、内容は全く別物だ。にもかかわらず、『一般人は捜査の対象外』とする政府見解に対し野党は、告発された場合は『捜査対象になるではないか』と主張して『言葉遊び』をしているのだ。」。

これが、仮にも大手新聞に掲載された記事だと言うことに目を疑う。
正しい箇所を探す方が難しい。

「嫌疑が不十分であったり、嫌疑が全くなかったりすれば、さまざまな事情を考慮して検察官が不起訴にし、具体的な嫌疑があれば、本格的な捜査に着手するという流れだ。」とある点。「不十分」かどうかとか「さまざまな事情」を集めるために捜査が行われるのである(23日間、逮捕勾留した末に「嫌疑不十分」として不起訴になる例が多数あるといえば、分かってもらえるだろうか)。

「嫌疑があるかどうか確認するのも捜査と言うことがあるが、それは嫌疑を前提としないから実質的な捜査ではない」とある点。理解することも困難な一文である。嫌疑が合理的疑いを越えなければ起訴できない、合理的疑いを越えるかどうかが、まさに捜査の対象である。刑事法系をそれなりに研究し、刑事弁護を約15年やってきたが、こんな議論を聞いたことはない。司法試験も受からない低次元の誤りとしか言えないし、このような発言をされた「検察幹部」氏が実在するとも、とても思えない。

しかし、怖いことに、法律を知らない人にはこれでも十分、通用してしまうのだろう。「また野党はあほなことやっているんだ」「やっぱりか」、という感覚で読み流され、知らず知らず、その人の意見形成の中に取り込まれていくのだろうと思うと、怖ろしいの一言に尽きる。

繰り返しになるが、一新聞の誤報や戯れ言に付き合っていてはきりが無いし、そうする気もないのだが、今回取り上げた部分に至っては、うっかり誤報でした、では済まされないし、うっかり誤報をしてしまったという程にすら、まともな内容でもない。取材や裏付け取材をしようともせず、言いたい記事を作っているだけではないかと思わせられた。

(弁護士 金岡)