平成27年9月と12月、本欄において、弁護士会照会制度の公益的意義を力説し、「弁護士会照会制度が弁護士制度の存立という社会基盤に関わると言うことを考えず、事なかれに走」る照会先が多いことを指弾した。
その後、周知の通り愛知県弁護士会が原告となった訴訟で最高裁判所が弁護士会照会制度の公益的意義を確認する画期的判断をし(最三小平成28年10月18日、なお、裁判所HPの裁判要旨だと回答拒絶が弁護士会への不法行為を構成しないとした部分だけが取り上げられており、感じが悪い)、事態が良い方向に転じるかも知れない、という希望が生まれた。実質手弁当で訴訟を担われる先生方は御立派である。

だがしかし、である。
個人的に経験するところでは、申し立てた弁護士会照会の採否を判断する調査室(単位会において設置しているところとそうで無いところがある)は、逆に随分と及び腰になり、踏み込んだ照会をかけることが弁護士会への責任論に繋がりかねないと警戒するのか、うるさいほどに介入してくる事態に、まま遭遇するところである。
一方では公益的意義を掲げて裁判を戦い、他方では会員の申立権に犠牲を強いて保身を図る、その二面性は批判されなければならないだろう。

一つ、事例を挙げる。

昨年のことだが、依頼者Aが、加害者Bに自身の醜聞に関わることをウェブ上にUPされたとして相談に来た。名誉毀損該当性は明らかであり、Bの連絡先を突き止めて悪ふざけはよすように交渉するのが依頼の眼目である。
ウェブ上の個人情報の追跡方法としては、例えばIPアドレスからたどることも考えられるが、なにしろ割と大がかりになり弁護士費用もそこそこ必要になり、気軽にお勧めできるものではない。ここで、Bの在校先が分かったので、同校にBの連絡先を貰えれば交渉できると、弁護士会照会を申し立てた。

すると弁護士会は、IPアドレスの方法でやるべきだとか、それが無理でもBの個人情報をぼかして在学関係に悪影響が及ばないようにすべきだと指摘してきた。勿論、Bの在学関係に悪影響を及ぼすことは本意では無いので、弁護士会が納得するまで名誉毀損行為を抽象化し、(取り下げ勧告を撥ね付けた経緯があることも書いておこう、)照会が採用された。
これに対し照会先は、当初は個人情報保護を理由に回答を拒否し、説得に及ぶと、今度は事案が抽象的すぎるので在校生が投稿主かどうかの判断が出来ず回答しかねる、という回答をしてきた。

事ここに至ると、Bに配慮するか、Aの名誉毀損を救済するか、という話になってくる。公益的意義を強調して裁判を戦うくらいの愛知県弁護士会なら、さぞかし妙案があるのかと思いきや、毎月、催促しても、なにも回答しない。流石に頭にきて、3ヶ月後、弁護士会を提訴すると宣言すると、ようやく、より詳しい事案で照会し直すから資料を追加してほしいという回答が届く、
ヤレヤレと思い、資料を提供すると、またしても4ヶ月放置。
挙げ句、「より詳しい事案で照会し直すから資料を追加してほしいという回答」は調査室長の個人的行為であり、会としてはこれ以上の照会はしないという目を疑う回答が届き、抗議するも、「照会先の回答拒否理由に変化はないから3度目の説得はしない」という明確な「嘘」を交えた回答と共に、「以上をもちましてすべてのご回答」という、いわゆる御役所的対応で一方的に折衝を打ち切ってくるという事態に至った。
(その2に続く)

(弁護士 金岡)