逮捕直後に接見依頼を頂いた件で、2日後、勾留されず釈放と相成った。それはそれで大変良かったのだが(常々思うが、本当に瞬発力と発想力、準備準備がものを言う分野だ)、釈然としなかったのは、裁判所から「勾留請求がされました」と確認を得て裁判官宛に意見書も出し、で、2時間もせず警察から釈放という連絡が届いたこと。勾留請求されたというのは誤報だったようだ。

当たり前だが、こういう誤報があっては困る。こちらが意見書を出す労力はまだ、我慢できようが、依頼者側の心労等々を考えると「気をつけて下さいね」では済まされない。

建設的提案を交え、裁判所に質問状を送ってみることにした。

「公開質問状」というほど大袈裟ではないが、参考までに貼り付けておく。

(弁護士 金岡)

以下、転載

当職が弁護人を務める被疑事件(※省略※)において、御庁令状部より勾留請求が出た旨の確認を得て弁護対応していたところ、捜査機関より被疑者釈放の一報を受け、慌てて裁判所に事実確認したところ勾留却下ではない(実は結局、勾留請求自体がされなかったらしい)という説明を得た案件があり、不可解に思っております。
どこで誤った情報が流れたのか、原因を究明し、今後の互いの執務に役立てるべきと考えますので、本書により質問致します。宜しく御回答下さい。

(事実経緯)
本被疑事件は、甲月A日午前に名古屋地検に新件送致されました。当職は当初から勾留不相当案件と判断し、前日B日の段階で勾留請求しないよう担当検察官に申入書を送付する等の弁護活動を行うと共に、A日午後1時からは地検地下にて被疑者と接見し、その後の見通し等も説明しておりました。
A日午後3時10分ころ、当職は担当事務局を介して御庁令状部に架電し、勾留請求が出ているかを確認しました。勾留請求が出ていれば、担当裁判官に対する意見書提出等の所要の弁護活動が生じると共に、被疑者に対しても、当日中の釈放率が低くなることを前提とした(勾留却下率が高いと報じられる裁判所でも、却下率はせいぜい10%強に過ぎず、まして御庁では却下率は今なお5%未満ではないかと承知しております。要検討案件の勾留裁判は遅い時間帯に回されがちであり、勾留決定に対し準抗告審の判断を仰ぐとしても日を跨ぐ蓋然性が極めて高いものです。)所要の活動(手続説明、精神面の安定及び差し入れ等の配慮等)が必要となるからです。
これに対し、令状部からは、勾留請求が出されている旨の説明があり、担当裁判官への意見書の提出を申し出た当職側に対し、裁判官が勾留質問に入る前に出すよう急がれたい旨の指摘がありました。そこで当職は、約12分後の午後3時22分のファクス送信で、意見書及び資料11点を提出致しました。
その後、当職が、関係者と差し入れ品、差し入れ手順の調整を行っていると、午後4時47分、捜査機関より釈放する旨の連絡が入りました。
そこで当職が、上記事務局を介して令状部に説明を求めたところ、午後4時55分ころまでに、要旨「勾留請求予定ではあった」「勾留却下したわけではない」という説明が得られました。

(質問事項)
1.本件に関する「勾留請求予定」は、いつ頃、御庁に伝達されましたか。
(理由)
例えば、朝9時の段階で他の案件と一括して検察庁から一覧が提供されると言うことも考えられますし、捜査機関から個別ばらばらに新件送致の情報が同送されると言うことも有り得ます。方法の詳細までは問いませんが、御庁が本件について、いつ頃「勾留請求予定」と把握されたかは、明確に御説明下さい。

2.一般論として、「勾留請求予定」案件について、最終的に検察庁から勾留請求がされるかどうかが確定するのは、いつ頃までに、どのような形でされるのでしょうか。
(理由)
御庁側でも、いつまでも勾留請求予定を待ち惚けることはないと思われ、おそらく午後早い時間帯までに然るべき方法で最終的な請求の有無が確定するのだと想像します。
本件については、既に述べたとおり情報の混乱が見られたわけですが、その原因を究明する上でも、一般論としての、確定する時間帯及び方法を御説明下さい。

3.本件について、午後3時10分ころの当職側からの問い合わせに対し、勾留請求が出ている旨の回答をされたのは、未だ「勾留請求予定」に過ぎなかったのに誤って確定的に回答されたのか、その時点で既に一旦は勾留請求がされていたような事情があったのか、御説明下さい。
(理由)
御庁の上記回答が、同時点としては無理からぬものであったのか、それとも誤った回答であったのかを確認させて頂く必要があります。

4.本件について、勾留請求が一度もされていない場合、勾留請求がされないことが最終的に確定したのはいつ頃になるのか、上記2項を踏まえ、御説明下さい。逆に、一旦は勾留請求されたが取り下げられたという場合は、いつ頃、請求がされ、いつ頃、取り下げられたかについて、御説明下さい。
(理由)
本件の情報の混乱について、原因を究明する必要があります。

5.今後の御庁の執務において、弁護人から事前に要望があった場合、「現に勾留請求が出た場合」や「勾留請求がされないことが確定した場合」は、令状部側から速やかに弁護人まで連絡を入れて頂くという取り扱いを提言します。この提言について検討の上、然るべき回答をお願い致します。
(理由)
事実経緯中に記載しましたとおり、被疑者及び弁護人にとり、現に勾留請求されたかどうかは非常な関心事であり防御活動にも深く関わります。しかし現状では、弁護人側から都度、確認を入れ、令状部から御説明を頂く他、知りようがありませんし、今回、そのようにしたにも関わらず情報の混乱が見られたわけですから、都度、弁護人から問い合わせる以外に知る方法がないという仕組みに問題があるものと思料されます。
上記の通り、非常な関心事であり防御活動にも深く関わることにも照らすと、(一律全件でというのは御庁の事務処理上、困難であるとしても、)個別の事案で弁護人から事前の申し入れがあった場合は、(そもそも請求予定とされていない場合は勿論のこととして、)勾留請求予定とされている案件について、最終確定(つまり、現に勾留請求がされたか、逆にされないことが確定したか)の時点で令状部から弁護人に連絡を入れて頂く方が、誤った情報が飛び交うようなこともなく、御庁も煩雑な問い合わせに対応する手間が省け、賢明であると思われます。
そこで、以上の提言について、御回答を求めます。

(終わりに)
当職は、本件について誤った説明を受けた責任を追及したいのではなく、より堅実な弁護活動のため、また、裁判所側におかれても無用の紛議を避けるため、問題が生じた場合は原因を究明し、それに対し、克服できる然るべき方法を考案するという当たり前のことを提案したいものです。
宜しく御説明、御回答下さい。

追って、本質問状に対しては、1項ないし4項については何れも容易に回答できるものと思料されますので、9月15日までに書面にて御回答下さい。5項については、庁内での検討等を要するでしょうから、年内に御回答頂ければ結構です。
以上