【手続について】

本稿で処置請求の手続を細かく論じるつもりはない。
日弁連には処理規程があるが、かなり簡素な規程であり、対象弁護士には「助言」「指導」更には懲戒手続に進む不利益処分が予定されていること、逆に、裁判所、検察庁に勧告意見を付すことが出来ること、は押さえておきたい。
各単位会は、それぞれ更に個別の手続規程を置くが、調べた限り、未設定の会もあれば、会ごとに適正手続の手厚さも違う。今回の件で、舟橋直昭委員長は暴走するわ、調査部会の報告案が二重に否定(処置相当の結論が覆され、調査部会の反対にも関わらず裁判所への勧告意見が圧倒的多数で可決された)されるわの事態が露呈した当会でも、反省の上に、規程の改定に向けて作業が進められている。

【大阪弁護士会の事例】

処置請求制度は、制度創設来、全国で6例程、請求例があるようだが、一件として「処置」された事例はないようである(手続的に請求自体不適法とされた某著名事件を除き、もし処置相当に持って行かれかけたのが私くらいだとすると、とても心外であり、今回の調査部会報告案(と舟橋直昭委員長)の異常さが窺い知れようものである)。
当事者が不名誉に思う(もしくは実際不名誉な事案)かどうかもあり、余り情報が出回らないのかもしれないが、割と耳目に触れる案件としては大阪腰縄手錠事件(被告人が、裁判官の入廷前の腰縄手錠の解錠を求め、同調した弁護人が敢えて出頭命令に違反し過料決定を受け、その特別抗告審で最高裁の判断を求めた案件)が知られている。

(処置事件通信1号から再掲すると、)大阪の事例は次のようである(髙山巌弁護士のまとめによる)。
「公務執行妨害及び傷害事件で大阪地裁に起訴された被告人は、手錠腰縄をされて出廷する姿を裁判長に見られることは違憲であると主張し、第1回公判に出頭しなかった。当初選任されていた3名の国選弁護人は、裁判所に対して、手錠腰縄の問題性について申立書等を提出したが、裁判所は法廷の秩序維持の必要性から、被告人の要望を容れなかった。そのため、第2回公判以降、弁護人らは不出頭を繰り返し、解任された。その後に選任された国選弁護人であるA弁護士らも、被告人の主張が容れられないことを踏まえて、期日に出頭せず、裁判所は、A弁護士らに出頭在廷命令を発付したが、その後の期日に出頭しなかったため、平成26年12月、裁判所は、A弁護士に過料3万円の決定をした。A弁護士は、決定に対して即時抗告したが、平成27年2月に棄却され、特別抗告も同年5月に棄却された。過料決定が確定したことを受けて、大阪地裁は、同年7月、大阪弁護士会に対して、A弁護士に対する処置請求をした。
大阪弁護士会刑事弁護委員会は、小委員会において、①出頭在廷命令を発する適法性・相当性、②不出頭対応における正当性を周到に調査・検討したうえで、全体委員会で議論を尽くし、①については、裁判所の対応自体に相当性を欠く面があった、②については、被告人の主張する権利擁護に努めることは弁護活動として正当なものであり、不出頭対応が違法・不当であるとの結論は導かれないとして、「処置しない」と結論づけた。」

最高裁がなんと言おうと、弁護士会は弁護士会の価値判断に基づき、刑事弁護を支援する。その確固たる決意が感じられる小気味よさである。
ちなみに、このような形で訴訟指揮と弁護活動が衝突した場合、これを争う手続的方法論として、敢えて処置請求を受けて即時抗告、特別抗告と係争することが考えられることは、ものの本にも紹介されている。A弁護士は、信念を持って、この道を行かれたのだと推察する。その信念も、それに応えた大阪弁護士会も、見事である。率直に言えば、羨ましい。

【刑事弁護委員会の諮問機関性】

なお、当たり前のように、刑事弁護委員会による調査報告、意見という制度を前提に論じているが、このことにも歴史的経過がある。
既に述べたとおり、不名誉方向の処置事件は懲戒手続にも連なることから、事件処理を綱紀懲戒側が担うことも制度設計としては有り得るところであろうが、実際にはそうではなく、刑事弁護を担う刑事弁護委員会が引き受けている。当会もそうである。

当時の担当理事者に、今回のため、当会の場合の議論状況を紹介頂いたところ、次のようである(通信臨時号より再掲)。
「裁判所の立場と弁護士会の立場は自ずと異なり、裁判所からみれば弁護人の行為が処置請求の対象になると考え得る場合であっても、被告人の防御を担う弁護人の立場からは、裁判所の訴訟指揮等に対し徹底して抵抗し、闘わなければならない場合があるのであり、裁判所による処置請求は、裁判所と弁護人が対立し、弁護人が被告人の防御のために究極の選択を迫られるような場面で行使されることが予想されること、そのような場合に、弁護士会としては、被告人の防御を担う弁護人の立場に立ち、弁護人の正当な活動を支援する立場から、裁判所の処置請求に対し、処置の要否を判断する必要がある。そして、このような観点から考えた場合、処置請求に対する事案の調査を担当する弁護士会の機関としては、刑事弁護に精通し、刑事弁護の充実及び強化を図り、いわば弁護人の活動を側面から支援することを目的とする刑事弁護委員会が相当であるとの結論に至った。
(中略)万一、刑事弁護委員会において、弁護人の立場を離れ、弁護人の活動を不当に制限するような結果に繋がる結論を下すような場合には、弁護人の活動を支援すべき刑事弁護委員会が逆に弁護人の活動を姿縮させる結果をもたらすことになり、弁護士会としての自殺行為と言っても過言ではない。」

肝に銘じなければならない。大勢に順応するとか、仲良し小好しは不要である。愚直なまでに弁護活動を支援する本懐に殉じて欲しい。

(弁護士 金岡)