現在、名古屋高裁刑事第2部の高橋徹裁判長は、前任地で既に「控訴審で即日判決」という悪名が聞こえていた。当地でも同様の声を聞いていたが、先日、無罪主張をしている事件で「即日判決が有り得る」との御託宣を頂き、抗議文を出したものの、現にその通り即日判決をされた(原審の事実誤認を指摘しながら、全く別の論理で有罪判決を維持するという~近年の名古屋高裁ではおなじみの~適正手続そこのけの判決であったことも指摘しよう)。

さて本題、控訴審における即日判決の当否である。

裁判長の言い分を推し量るに、「控訴趣意と事実取調べ請求は(証拠の採否はもとより内容も含め)事前に検討できる」「検察官はどうせ“本件控訴には理由が無く速やかに棄却するのが相当”としか言わない」「ならば事前に結論を決めておいて何が悪いのか」「迅速な裁判は刑訴法上の要請」というのであろう。

端的に言えば、これは落第答案と言ってよい。何十年と裁判官の道を歩み続けた結果、たどり着いた境地がここなら、おそらく一歩目で方向を間違えたのだろう。

反論は大きく2つ、提出できる。
第一に、「事実取調べには入らないでおこう」と決めて、その前提で判決を携え法廷に臨んだとする。弁護人は異議を述べるだろう。しかし、事実取調べに入らないと決めている裁判体は異議を受け付けまい。この種の異議は、同じ裁判体が審理することから、殆ど通らないとはいえ、私でも数回、通った経験がある。つまり裁判官は、虚心に異議を聞き、自分の誤り、思い込みを糺される機会と捉えなければならないが、判決を用意している決めつけぶりにおいては、それは機能しない。
第二に、「一定の事実調べをしよう」と決め、採用する予定の証拠を踏まえた判決を携え法廷に臨んだとする。この場合、検察官が異議を出す可能性を置いても、前記問題に加え、(採用された限度で主張を組み替える)弁論権を無視しているという問題が加わる。なお、「弁護人の事実取調べ請求を全部採用すれば控訴趣意書の注文通りなのだから文句あるまい」という反論も、妥当しないだろう。法廷に謙虚に臨めない裁判官に弁えのある判決は期待できないのだから。
以上に反し、「被告人の納得感を損なう」という反論は、妥当ではないと思う。我々は、裁判官に、考えたふりをしてほしいと望んでいるわけではなく、考えてほしいと望んでいるのである。

とまれ、法廷に臨む前に心証が凝り固まっている裁判官は、公正では有り得ない。
以上のように考えると、期日前に「即日判決の可能性がある」と言われようと言われまいと、即日判決と言われた時点で、やるべきことは一つしか無いのだろう。

(弁護士 金岡)