ひょんなところからたどり着いた、とある刑事「専門」事務所のHPに、「昨年度」の実績が掲載されていた。
曰く、「昨年度は220件の不起訴・無罪を獲得いたしました」というのである。

一見して、誇大広告と感じる。
少し検討してみたい。

「昨年度」が具体的に何年を指すのかは定かでないが、公開されている最新の平成28年司法統計では、通常第1審の無罪判決が105、一部無罪が72、控訴審の無罪が24に控訴審の一部無罪が17、上告審は何れも0、締めて218件である。
そうすると、「昨年度」が平成28年だったとして、全国総数218件の無罪に対し「220件の不起訴・無罪を獲得いたしました」という宣伝がどうなのか、ということになる。

勿論、無罪と不起訴なら、無罪の数が相対的に少ないことは素人目にも分かるかも知れない。しかし、10パーセントくらいは無罪が含まれている、と、通常の感受性では捉えられてしまうのではなかろうかと考えても無理はなさそうである。この場合、昨年度22件の無罪を獲得した、という印象を与えることになるが、はてさて、この事務所が全国の無罪総数の1割を占めているとは到底、思われない。
もう一つ、「無罪」の数え方がある。主文で無罪が宣告されなければ司法統計上は無罪扱いされないが、主文で宣告されない類の無罪判決もある。例えば包括一罪の一部無罪がそれである。また、極論すれば、「殴り、蹴った」暴行事件で「蹴った方は認定できない」となれば、「蹴った方は無罪になった」と言い張ることも出来よう。数件の包括一罪関係にある窃盗のうちの一部が無罪になるような場合はともかく、後者のような場合まで無罪に含め出すと、世間が受け止める「無罪」とはだいぶ、懸け離れるだろう。

もし、220件中、主文における一部なり無罪宣告が10件もあれば、まあ誇大広告とまでは言えないかも知れないが、3件や4件程度で、これに217件の不起訴を足して「220件の不起訴・無罪」というなら、詐欺まがいの誇大広告というべきではないか、と考える。
不起訴の件数についても少々疑問があるが、その点を言うまでもなく、誇大広告疑惑がある。
弁護士会は、宣伝広告の適正化に腐心するのであれば、こういったHPは自ら率先して調査し、件数の根拠資料を提出させるなどして審理すべきであろう。

(弁護士 金岡)