下級審を担当した「刑事専門」事務所の弁護活動に不満を持つ依頼者の依頼を受け、同事務所を相手取った紛議調停を起こしたことがある。

紛議調停とは「弁護士とのトラブルについて、弁護士会が間に入って解決の道を探る紛議調停という制度」(日弁連HP)であり、弁護士の中でも有識者が担当し、弁護士目線で妥当な解決を探るという制度が上手く機能すれば、弁護士自治を強化する縁ともなる(一方で、機能不全に陥ると、なんだか組織的に弁護士の不祥事を有耶無耶にする制度に見られてしまうだろうと思う)。
そのような機能に期待して、刑事弁護の在り方を広く議論しようと、要件事実論どうのこうのを離れて地に足のついた議論が可能な紛議調停を選択してみたのである。

顛末であるが、残念なことにと言うべきか(案の定ということもできる)、実費を含め費用を全額返すと言われてしまい、経済的解決としてはこの上ないことながら、刑事弁護の在り方についての議論は一欠片たりとも行えなかったので、正直、面白くないものである。
費用全額を返して貰ったからといって、それにより失われた防御権が回復されるわけではないし、穿った見方をすれば「他で稼げば良いから紛争は全額返金で終わらせる」的な対応にも思えるところである。
消費者事件に良く見られる悩みであるが(告訴取り下げを条件に全額返金する的な和解対応・・)、個人的利益と全体的利益とが相反する場合に、個人的利益を離れて事件処理する機会は、そうそう巡ってこないものだと思わざるを得ない。

(弁護士 金岡)