刑事事件の尋問中、書記官は独自に録音を取っている。
尋問中であると否とを問わず、このような録音が謄写できるか、という問題がある。
顕在化する一つの局面は、裁判官や検察官と相当に激しい遣り取りが生じたときに、彼/彼女らの問題発言を証明する手段として入手したいという場合がそれだ。過去に数度、そういう場面に直面したが、決まって「用済み後は消去した」の一点張りである(絶対嘘だよね、という証拠があった場合もあるが、力尽くで押し切られるのが弁護人の悲しさである)。謄写対象になるかどうか以前に、あるというと民事の保全を仕掛けられたりするとでも思っているのだろうと想像する。
もう一つの局面は、公判調書の正確性に疑問が生じた場合である。上記に類する場面もあるし、腑に落ちない尋問記録の場合も然り。
つい最近、経験したのは、引き継いだ要通訳事件で、「一体、どういう原語が、このように訳出されて尋問録になったのだろうか」ということを検証したいという場面である。
このあたりの規定は余りなじみがなく、使いこなせている自信があるわけでもないが、謄写の対象となるには刑事記録と一体になっている必要があること、そして、法廷録音が刑事記録と一体となるのは、その旨の明文がある場合だけで、書記官の手控え的録音が直ちに謄写の対象となるわけではない、という理解が正しかろう。
明文の根拠を持つのは、例えば刑訴規則52条の20の場合や、裁判員参加法65条3項の場合が挙げられる。これらの場合、法廷での実際の遣り取りを検証するために録音体の謄写ができる(書記官の手控え的録音が謄写できるわけではない)が、そうでない場合は、書記官の手控え的録音は記録と一体というわけではなし、謄写できないのだろうと思わされていた。
ところが、上記の事例で、裁判所に対し、「原語の訳出を検証したい。被告人質問手続の録音媒体は現存するか。現存するなら弁護人に開示されたい。」と要望したところ、実にあっさりと許可されて、普通に謄写できた。
上記事例は、非対象事案なので裁判員参加法の適用はない。速記録の事案なので、刑訴規則52条の20の場合でもない。速記録の事案だから、そもそも公式記録としての録音などあるはずもない。そうすると、書記官の手控え的録音が謄写できたということにならざるを得ないのだが・・まあ、訴訟指揮権に基づく合理的裁量に基づく許可ということなのだろうか、と理解した。
やればできるじゃないか、というか、これまで抵抗に遭い続けたのはなんだったのだろうかというか。ともかく、良い前例には違いないと思う。
(弁護士 金岡)