本欄本年6月8日付けで「どうしても保釈が無理と断じられるか、保釈条件を工夫するなどして、最後まで検討し尽くすことこそ重要であろう。」と指摘したところである。

このことは、弁護人にも、裁判所にも、言える。

弁護人は、職務基本規程47条で「身体拘束からの解放に努める」ことを求められている。保証書事業など使える選択肢も広がる中で、あの手この手の提案に努めなければならない。他方で裁判所も、「そのままでは無理だが、こういう事情はないのか」「雇用主からも一筆をもらえないか」「両親と同居は難しいのか」みたいに、工夫の余地を投げ掛けるべき責務を負うはずだ。「御意見は伺いましたので慎重に検討します」では、何の発展性もないし、裁判所の問題視している部分を弁護人が解消する術を持ち合わせていることも一定数、あるだろうに、これを見逃してしまう結果に繋がりかねない。保釈事件であれば、捜査の秘密よりも断然、噛み合わせを優先させることが出来るだろう。

とまれ、保釈されるべきものが保釈されない事態は、1日どころか半日、数時間といえど、許されないという緊張感が必要である。

近時、保釈環境を充実させて10日で逆転の保釈判断を得たという事例に接した(名古屋地裁本庁では無い)。

起訴直後の某日段階では、3号あり、4号ないとも言えない、執行猶予中の再犯である、との事情の下に、逃亡のおそれは保釈保証金ではまかないきれないと判断されている(弁護人申立準抗告棄却、裁判長はなんと、本欄本年6月8日付けで「定型的思考の弊」を戒められた増田裁判官その人であった・・)。

これが、10日後の段階では、4号について「実効的な罪証隠滅がされるおそれは高くない」と下方修正された上で、「実母」「知人」「雇用主」が関わること、「雇用主」が保釈保証金の一部を拠出すること、「実母」が同居を引き受けたこと、比較的高額な550万円の保釈保証金、といった事情を指摘して、裁量保釈が追認された(検察官申立準抗告棄却)。

並べてみると、後者の保釈環境の充実ぶりが光り、まさに職務基本規程47条を地で行く苦労があったと見受けるが、問題は、これを10日前に実現できなかったことだろう。裁判所側からは「弁護人が環境資源を持ち込まないとどうしようもない」と言われるかも知れないが、「不安が残るからダメ」の前に、裁判所側としても考えるべきことがあったのではないか。3号があって執行猶予中の再犯だから難しい、では、それこそ、定型的思考の弊というものだろう。

(弁護士 金岡)