「準抗告99」において、「逆に、薬物事件のうち、覚せい剤事犯では認容事例は1件もない。大麻所持について、認容事例が1件あるが、これは被疑者が学年末試験を控えた大学生ということであり、一般化はできないであろう。」と論じた。
「重要な情状事実」論において、薬物の入手経緯や常習性を挙げて2号事由を強調する手口は実に馬鹿げている(圧倒的多数の薬物事件の審理は定型化されており、入手経緯や常習性はさほど結論を左右しないように思われるが、そうであれば、その程度の要素について~何が出来るかすら良く分からないが~危険を冒して隠滅する被疑者がどの程度いるのかも皆目見当が付かない)が、実務的には上記のように観察せざるを得なかったところである。

その後、裁判官多数が執筆された研究書で、薬物事案の釈放事例も少しだけど紹介されている、という話を聞いていた(分厚すぎて読み進まない・・)が、この程、大麻所持で実物を拝むことが出来た。

0.5グラム余りの単純所持事件で、「常習性や大麻草押収手続の経過に関して罪証を隠滅するおそれがあることは否定できない」が、「現行犯逮捕時から大麻草の所持を認めていることや、大麻草押収手続に関する被疑者供述の内容自体に加え、押収時に居合わせた2名の知人とも接触しない旨誓約していること」から、実効的な罪証隠滅がなされる余地は大きくないとされた。
その上で、古い異種罰金前科のみであること、経営者であること、妻の身元引受から、逃亡のおそれは高くなく、勾留の必要性はないとされた(名古屋地裁刑事第4部、2020年11月10日決定、辛島明裁判長)。

何一つ、変わったことを言っていないのだが、こういうのがまだ珍しいというのが現状なのだろう。下手にああいう観察結果を公表したために、「認めでも10日勾留で保釈」みたいな誤った理解が流布しないように務めなければならない。

(弁護士 金岡)