現在進行形の事件ではあるが、興味深い事例であるので、紹介しておきたい。

控訴審から受任したところ、絶対に行われているはずの捜査結果が開示されていないという問題につきあたり、控訴趣意書段階から論点化して証拠開示を求めていた。
検察官は頑なに、「そんな捜査はしていない」という。
しかし、誰がどう考えても、しないはずはない。

そういうやり取りが数ヶ月も繰り返され、結局、当該証拠と、(特に「ない」と言われた時に備えて)確認のための送致目録の公務所照会を申し立てたところ、控訴審裁判所が何れも採用した。
説明を足すと、当該証拠は、既に確定した共犯者の事件の(確定記録に含まれない方の)記録に含まれていると思われた。そこで、その不使用記録が保管されている検察庁に、当該証拠と警察から受けた送致目録とを、公務所照会をかけたわけである。

そうすると、照会先検察庁ではなく担当検察庁から「当該証拠」として「捜査したけど特に結果は得られなかった」という捜査報告書が開示された(いわゆる「丁番(書類番号)」のない不自然な代物であった)。・・・「やっていない」といわれていた捜査が、「やったけど結果は得られなかった」に変わったということになる。おまけに丁番がない。これまでの数ヶ月のせめぎ合いが理解できなくなる不審があり、遡って作成した疑惑が生まれた。
是非とも送致目録にあたっての検討が必要である。

しかし、照会先検察庁は、「担当検察庁の判断である」「送致目録の照会は、整理手続でもないのに保管証拠一覧を提出させるもので罷り成らん」という、わけのわからない理屈で抵抗し、担当検察庁もこれに同調しようとする。
公務所照会を足蹴にされた格好になる控訴審裁判所は、これらの対応を強く批判し、担当検察庁を文字通り、叱りつけていた。

最終的に、担当検察庁が、送致目録の必要部分を持参し、裁判所と弁護人とで確認する、ということになった。
送致目録まで確認し、一応、落着を見たのではあるが、考えてみれば、送致目録を弁護人に隠す理由というのが分からない(これを検察官保管証拠一覧に作り直すというのもまた、意味不明な作業である)。少年事件では法律記録に送致目録が綴り込まれるから全部丸見えである。少年事件で弁護人の耳目に触れることが差し支えないものが、成人事件だと差し支えるという理屈は立たない。
整理手続に関する関連規定が整備されて証拠物の押収過程が類型的に開示されるようになったのと同様、捜査機関が収集作成した証拠の送致過程が分かるよう、せめて、送致目録も類型的に開示されるようにすれば良い。少しは、不毛な証拠開示を巡る鞘当ても減るだろう。

(弁護士 金岡)