当事務所の報酬体系の話ではなく、いわゆる費用補償決定のことである。
費用補償決定などそうそう公開されていないし、仮に公開されているとしても積算対象である弁護活動の実態など知るべくもない。
となると、費用補償決定をよりよい水準にする営為など、期待すべくもないことになる。

本欄本年6月30日以下で報告した名古屋高裁の無罪判決について、費用補償決定が届いた。関心のあるところの数字を挙げると、
(日当及び報酬)
捜査段階を含む第1審分  66万円
控訴審分         143万円
上記に含まれないもの   30万円
と算定された。
なおこれは、第1審から複数選任の必要性を認めた上での2名分での算定であること、また、「その他の準備費用」には文献翻訳手数料や専門家の意見書費用が総合考慮されたことが、何れも決定文中で明記されている。

まず、刑法学者の意見書や、代謝に関する海外研究の翻訳などに費用をかけたことから、そのような訴訟準備費用30万円が計上されたことはよしとしたい(決定は国選基準を参照しているとするが、この部分は国選基準に逆輸入される必要があろう)。

他方、捜査段階を含む第1審については、相当軽視されている、と言わざるを得ない。
黙秘の否認事件で捜査弁護をし、保釈を取る序盤戦、敵性証人を尋問する準備3ヶ月、専門家証人を尋問する準備3ヶ月、最終弁論に至る都合丸1年の事件を、捜査20万・公判1人あたり着20万でやらされるのは辛い(人証何人、実質審理何期日、といった段階的基準があるのだろうか?)。
着20万は、旧日弁基準では「簡明な事件」の着手金の最低金額(20万~50万)である。複数選任必要案件というなら、それなりの難易度であり、なのに各自に着20万の最低金額というのはあんまりではなかろうか。裁判所が、せめても弁護活動に報いようと、好意的な算定をしたのだろうことは理解するが(複数選任不要として44万円かそれ以下に抑えられなかったというだけでもましである)、所詮は最低金額に過ぎないと言うことは理解されるべきだろう(私選分の上積みは国賠で、といわれても、それがいかに非現実的かは裁判所が最も良く分かっているはずだ)。

次に、控訴審の143万円というのは、着・報を含んでいると理解して分解すると、一人頭65万である。着22万、報44万に少し足りない。控訴審の方が若干高くなるとして、着手金を第1審から概ね1.1倍し、かつ、着手金の2倍の報酬を計上したということか。
否認の控訴審を、一人頭、最低金額に毛の生えた程度の金額で受けるというのも、なかなかしんどい話に違いない。50万+50万とか、まあ2人目分は少し割り引いて2人合計80万とか、それくらいの数字が出てこなければ始まらない。

思い出話として、まだ法テラスが出来る前の、従って国選を受けられた時代、裁判所は弁護活動に報いる場合、経費の算定を操作して上積みしていたものだ。
任意性が否定された上に心神耗弱が認定され、執行猶予が付された強盗致傷事件では、弁護人の私的鑑定費用が丸々、経費に計上されて償還され、こうやって理解が得られることは大事なことだと痛感したものであるが・・時代と制度が変わっても、おそらく、国選基準を参照しての着・報はほぼ動かせないので、複数選任の必要性や、経費計上でせめても妥当性を得ようというのだろう。
いや、簡明な事件の最低基準当たりをうろうろするのをやめようよ、と言いたいのだが、どうやれば変わっていく機運に繋がるのかは、遺憾にして見当も付かない。全件国賠運動でも展開し、職務行為基準説等に阻止されながらも傍論で「費用補償が安すぎる」を引き出せ、ということだろうか。

(弁護士 金岡)