既に一部紙で報道されているが、名古屋地判2021年10月29日(地裁民事4部合議、岩井直幸裁判長)は、収賄系の被告人(後に有罪確定)の報道(起訴翌日のもの)において、事件とは無関係の事柄である上に真実でもない「病院経費を私的に流用してキャバクラで飲食」等とした記事が名誉毀損であるとして毎日新聞社に賠償を命じた。

記者の真意が真面目なものであったかどうかは格別、記事の作り方自体が頂けないものであって、なにしろ大見出しが「委託料でキャバクラ」である。真面目に問題告発をしたいなら「経費を流用」とか、せめて「飲食」でもよかったのに、よりによって「キャバクラ」という言葉の選び方には、扇情的な売らんかな商法としか言いようのないものを感じた(毎日新聞社側は、このような批判はキャバクラ事業を貶めるものだと反論していたが、言っていて恥ずかしくないのだろうか、というのが率直な感想である)。
判決が批判するように、裏付け取材も全く不十分であった。記事掲載後に県警の捜査担当が「よくここまで書いてくれた」等と褒めてくれたから真実相当性がある、などという主張に至っては、最早、何を言っているのか分からない。
とまあ、代理人的に言えば、穏当な結論であったと思う。

ところで、この事件は、本欄でも言及したことがある案件であり、有力な刑法学者からも各審級の有罪判決が法解釈的に成り立たないことを適切に指摘頂いたが、有罪が確定した残念な案件であった。
そして、一つの事件が何重にも不利益をもたらすという悲惨な事態を、未だ継続して経験中である。
・起訴休職に伴う支給割合ゼロ(不服審査で上限に回復)
・名誉毀損報道(本件判決で救済)
・有罪判決
・退職金不支給(係争中)
・医業停止処分(係争中)
・損害賠償請求(係争中)
長年の功労も功績も全て無いものにされ、売らんかな商法じみた名誉毀損までされる。壮絶なる袋叩きである。二重三重どころか五重六重の不利益を重ねていくことは、余りに過剰ではないだろうか。

【11月17日追記】 本件は、毎日新聞社の控訴無く、確定した。現時点で、毎日新聞社が紙面で後追い報道(控訴できなかったことや、被害者への謝罪掲載)をしている事実は確認できない。

(弁護士 金岡)