愛知刑事弁護塾の定例会で、外部講師を招き「国賠研修」を行った。
同趣旨の研修を依頼されたことは私自身もあるが、経験的に考えて滅多にないだろうものであろう。本欄2019年3月25日で紹介した秋田地判の担当弁護士が愛知県弁護士会に登録替えされたことを知り、またその弁護士の「戦績」を知る中で、是非にと企画させて頂いたのである。

外部講師は大野鉄平弁護士。
現在9件の国賠を抱えておられるという。
その心を聞くと、「被収容者の法律扶助へのアクセス」に強い思いをお持ちであった。確かに、被収容者が民事訴訟に出廷する権利を、刑事施設はほぼ否定している。弁護士会の人権救済勧告は10指に余る勢いであるが、全く改善されない。物理的にも費用面でも司法アクセスを奪われている被収容者の思いを汲み取り、身を粉にして代理人を務めるというのはなかなか並大抵なことではあるまい。
勿論、件の秋田地判を含め、実践的な知識と、問題意識を持った工夫をされているので、初心者は勿論、ある程度の実戦経験がある弁護士にも参考になること請け合いである。
国賠というと、なんとなく及び腰になるかもしれない。が、前記司法アクセスの理念や、また、刑事手続では救済されない違法行為を是正する上で、必要不可欠な手段である。刑事事件の前線に立つ弁護士は勿論、それ以外でも一度は研修を受けるべきだろうと感じた。

最後に幾つか、(裏話的であるが)印象に残ったことを挙げておこう。

・ 最終的には、一部弁護士の気概や自己犠牲に依存しないよう、被疑者国選のような公的な制度を目指したいとのことであった。質の問題を常に伴うが、確かに裾野拡大のための制度的手当は考えられなければならないだろう。

・ 件の秋田地判は、控訴審でひっくり返されている。その上告審はどうなったのかと思いきや・・法テラスの扶助審査が数ヶ月、終わらない間に、印紙が納められていないと言うことで上告却下になってしまった由である。私自身の少ない経験の中でも、国賠の上訴審ともなると法テラスが勝訴の見込み要件を中心に消極姿勢を示すことは知っているが・・国賠という分野でそれをやることは、更なる司法アクセス妨害ではないか。だから法テラスなんかに法律扶助事業を任すべきではないのである。

・ 法テラスを利用する依頼者の採算面を尋ねると、「例えば慰謝料5万円を認容されたとして・・全額、法テラスに取り上げられますね」とのこと。そのお金は、次の法律扶助予算に回されるそうである。つまり、国家賠償の被害者が得た賠償金は、法律扶助予算に組み込まれ、その結果、国は、法律扶助予算をその分、節約できる。国家賠償の被害者の手元には、一円も残らず、国は、その分、予算を節約できるから、国は失うものがない。国が失うもののない国家賠償とは一体何なのだろうかと、考え込まされる。

・ 講師は、刑事施設相手の証拠保全経験も相応に豊富で、普通に認容されると考えて良いようである。かつて私は、入管の制圧ビデオの保全で動画を映させようとしない入管の抵抗に遭ったことがあるが、収容房のビデオ動画を、部分的に目張りしつつ重ね撮りすることも問題なく認められているとのこと。

(弁護士 金岡)