これは極めて危機的な裁判例である。危険と言うよりは、こんな輩が裁判官をやっていて良いのか?というのが率直な感想である。
いわゆる古田国賠の控訴審判決は、なんと、在宅被疑者に取調べ受忍義務があるという判断をしてしまった。

第一審の判決については、末尾のリンク(古田弁護士の事務所HP)を参照。同判決への古田弁護士の寸評は「非常にお粗末なものでした」である。
しかし。
下には下がある。控訴審判決は、1月も半ばである早々に間違いなく本年の「愚劣な裁判例大賞」筆頭候補といえるだろう。

検察庁に出頭するも、取調べへの弁護人立会が認められないので取り調べされずに帰宅すると言うことを繰り返していたことが逃亡を疑う相当の理由を根拠付けるか、という論点に関する説示部分は、次の通りである。

「正当な理由のない不出頭は,一般的には逃亡ないし罪証隠滅のおそれの一つの徴表であると考えられ,数回不出頭が重なれば逮捕の必要が推定されることがあると解されている。そうすると,検察官の出頭要求に応じて被疑者が出頭したものの,弁護人を取り調べに立ち会わせることを求め,これを検察官が認めなかったことから,結果として被疑者の取調べを行うことができない事態が繰り返された場合に,検察官が,被疑者が正当な理由なく取調べを拒否しており,正当な理由のない不出頭を繰り返した場合に準じ,逃亡ないし罪証隠滅のおそれがあるとして逮捕の必要性があると評価することに合理的根拠がないとはいえ(ない)」(名古屋高裁2022年1月19日、永野圧彦裁判長、水谷美穂子裁判官、内山真理子裁判官)。

上記説示部分は、検察官がそのように考えることの合理性について論じた部分であるが、判決では逮捕状発付そのものの違法性も争われ、高裁は、これが刑訴法の要件を満たして適法であると評価しているから(その後の勾留請求は職権不発動、検察官の準抗告に対して執行停止すらされないという異例の経過をたどったにもかかわらず!)、「検察官がそう考えるのはしょうがない、裁判所は同調しないけど」ではなく、「上記の事態を受けて逮捕状を出すことは適法」だという判決なのである。

何と言おうか、言葉もないが、第一に、取調べを断ることは権利である。少なくとも在宅被疑者に取り調べを受ける義務はないのだから、「取り調べは受けません。起訴したければどうぞ。受けて立ちますので裁判所に呼び出して下さい。」という権利がある。であるのに、「正当な理由なく取調べを拒否」という発想が凄い。正当な理由がなければ取調べを拒否してはならない、という前提自体が、最早何というか、ただただ凄すぎる。
第二に、取調べの拒否を出頭拒否に準じて扱うという説示である。「準じ」とは、同じように取り扱うと言うことである。逃亡せず弁護人と一緒に出頭している在宅被疑者を、出頭拒否を繰り返す場合と同じように取り扱うというのは、最早、日本語としても成り立たない次元である。
第三に、逮捕が出頭確保のためだということも、分かっていないようだ。呼び出せば検察庁にだって裁判所にだってやってくる在宅被疑者を、出頭確保のために逮捕する必要はないだろうから、逮捕を別の目的で認めている、ということになる。

「任意捜査である以上、弁護人同席を求めることは不当でない」と喝破した名古屋地裁2008年10月27日以来、いまや弁護人同席をどう制度化するか、というところに議論が来ているときに、驚くべき裁判例である。

この3名の高裁裁判官には、こう、お伝えしたい。
まず、脳みそをどこかに置き忘れていないか、良く確認して欲しい、ということである。
次に、刑事訴訟法を勉強したことがないなら、そういう場合は謙虚に回避する手続が民訴法に用意してある、ということも、学んでおいて欲しい。

以下は、古田弁護士のウェブサイト

https://ftlaw.jp/communication/%e4%ba%8b%e4%be%8b%e5%a0%b1%e5%91%8a%ef%bc%9a%e5%8f%96%e8%aa%bf%e3%81%b9%e3%81%b8%e3%81%ae%e5%bc%81%e8%ad%b7%e4%ba%ba%e7%ab%8b%e4%bc%9a%e5%9b%bd%e8%b3%a0/

 

(弁護士 金岡)