https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/131/091131_hanrei.pdf
一審弁護人から色々と伺い、その陶冶された知見の深さに甚く刺激を受けたものであったが、残念ながら最高裁で逆転有罪になったという。

薬物売人だという情報と犯歴を主たる根拠として「自己使用」の嫌疑ありとして強制採尿令状を請求し、裁判所がそれを認めてしまったことで発付された令状に基づく尿の鑑定結果の証拠能力が争点である。
最高裁判所は、令状発付は違法であるとしたが、「警察官らは、本件犯罪事実の嫌疑があり被告人に対する強制採尿の実施が必要不可欠であると判断した根拠等についてありのままを記載した疎明資料を提出して本件強制採尿令状を請求し、令状担当裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき、被告人に対する強制採尿を実施したものであり、同令状の執行手続自体に違法な点はない。」とした上で、令状主義の精神を没却するような重大な違法はないとした。

この判断のおかしさは、原判決と対比すれば分かるだろう。
最高裁の判示した原判決の反対説は、「捜査機関によるずさんな、また、不当に要件を緩和した令状請求に令状担当裁判官のずさんな審査が加わって、事前の司法的抑制がなされずに令状主義が実質的に機能しなかったのであり、こうした本件一連の手続を全体としてみると、その違法は令状主義の精神を没却するような重大なものである」としていた。

最高裁判所は、要するに「捜査官に悪気はなかった」という。これに対し原判決は、令状主義がきちんと機能していたかどうかに着目している。
思うに令状主義の精神がきちんと機能していたかどうかは客観的な事象のはずである。悪いのが捜査官であれ裁判官であれ、令状主義の精神が機能していなければ、令状主義が守ろうとしたものが守られていない(本件では強制採尿という、甚だしい人権侵害として帰結している)。令状主義が守ろうとしたものが守られていないのであれば、今後はそれが機能するよう無罪を以て事態を解決する他ない。

今回の最高裁の判断は、(「ありのままを記載した疎明資料を提出して本件強制採尿令状を請求」あたりに時代の風を感じるがそれはさておき)捜査官の主観に重きを置きすぎており、ますます、「悪気はなかった」を連呼する偽証を助長する危険を感じざるを得ないし、下級審の審理にも、令状主義違反がもたらした客観的な法益侵害そのものではなく捜査官の主観に偏重する影響が及ぶのではないかと懸念する。

(弁護士 金岡)