【対話】

第1回会議から第2回会議にかけて、これまで述べてきたように、こちら側では通信文を発行して考え方を伝え、調査部会案による誤導を避ける、というのは最低目標に過ぎず、より高次には、これを機に、きちんとした刑事弁護とは何かと言うことを精神論、技術論の観点から議論しようと考えた。
これまでに紹介した後藤貞人弁護士の意見書(本欄での顕名掲載に応じて頂いたことをここに感謝する)、処置制度制定当時の担当副会長の意見書、大阪弁護士会の事例等は全て、その成果物である。

そして、こういった対話は、一般の委員と続けることが肝要と思われた。私に肩入れするでもなく、執行部に阿るでもなく、自ら思考し行動して理非曲直を正せる一般の委員が多数いること、その地力に期待した。
そのため、出席を呼びかけ、電話をかけ、出席できなさそうなら事前に意見表明、委任状を託すよう御願いする、ということを行った。

とある弁護士からは「選挙まがいの委任状集め」と言われたが、勿論そうではない。後に述べるように著しい手続の不備があり、穿った見方をすれば、舟橋直昭委員長が、その意に沿う結論を得られる出席者の分布になるまで幾らでも工作が可能な制度の下、対抗手段は、世論を喚起し監視するしかないと思われたということである。
ついでに言えば、多数派工作のような政治的能力は私には欠けている。頼れるのは手前味噌に言えば刑事弁護力のみである。なので、選挙まがい云々の非難は当たらない。

【規程の不備】

さて、話を戻すと、このように対話を試みる中で痛感したのは規程の不備である。規程が出来た当時、おそらく私も熱心な委員であったはずで、そこは不明を恥じるのみであるが、当事者になると色々見えてくるものもあると言うことである。

気の向くままに挙げると、
1.委員が事前に記録を閲覧できる手続の整備がない。調査部会との情報格差が大きく本来議論にならない(だからこその通信文でもある)。
2.調査部会案も事前に閲覧できない。会議の場でいきなり説明されても理解が追いつかないと言うことはままあるだろう。
3.当事者(つまり私)には忌避権が与えられているが、議事から排除されるので、議場でおかしなことが行われていても知りようがない。つまり死文化している。
4.会議が予定より1時間2時間と伸び、帰路につかざるを得ない委員に、投票権がない。委員長や調査部会は最後まで出席できる日程を調整するだろうから、出席者分布が操作されやすい。
5.議長が一方の立場を表明することが妨げられない。本来、賛成派と反対派とを公平に扱うべき議長が、冒頭から「有罪の冒頭陳述を行う」始末では、公平な議論は期待できない。
等々である。もし、他会の弁護士が本欄を御覧になっている場合は、是非、今後の規程整備に向けて参照にして頂きたいと思う。

【対話の成果】

事前に対話を求めた委員らには、出席できないなら事前に意見書を提出し、態度表明して欲しいと御願いしていた。勿論これが有効投票数に加えられることはないだろうと分かっていたし、委任状合戦となれば政治力に乏しいこちらには嬉しくない。そうではなく、一人一人の委員が考え行動することが重要だと思った、ということである。

その成果として、過半数の委員が処置に反対し、あわせてその殆ど全員が裁判所及び検察庁に対し勧告的意見を付することを求めることとなった。
当日の議事進行はやはりかなり不公平に行われたようであり、検察庁への勧告的意見は俎上にも載らず消え失せたが(長きに亘る整理手続の最終日の直前に新証拠新主張を提出した検察官が諸悪の根源であることは余りに明らかである。裁判所の責任を免じるものでは全くないにしても。)、処置不相当及び裁判所への勧告的意見を付することになったことで、大筋で大義は守られたと言えるから、対話は成果を上げたと言って良い。

(弁護士 金岡)