愛知県弁護士会が誇る刑事弁護支援制度の一つに、国選事件における鑑定費用の援助制度がある。
正式には「特別案件等支援規則」及び「特別案件等支援規則の実施要領」がそれである。鑑定が必要と認められる事件について、その費用が会から援助されるもので、精神鑑定の他、情状鑑定、法医学鑑定、工学鑑定、DNA鑑定、筆跡鑑定その他の鑑定の私的鑑定が想定されている。
このような備えのある単位会はごくごく極く少数と聞いている。

国選事件において鑑定経費を依頼者に請求できるかどうかには、見解の対立があり、例えば親族が自主的に支弁する分には構わないとする見解もあるが、一旦認め出すと、最悪、国選弁護制度の存立を揺るがしかねない呼び水ともなる。そこで、広く会員の負担に帰せしめる形で基金を設立したもので、これにより、少しでも武器対等に近づくことが出来る。ともすると、「裁判所に鑑定を請求すれば良いじゃないか」(民事と異なり請求者だからといって鑑定費用を予納する必要は無い)と言われるが、博打的要素もさることながら、裁判所が鑑定を必要だと判断できるところに持って行く上でも鑑定が必要だったりするもので、話は全くそう簡単ではない。
精神鑑定、法医学鑑定は言うに及ばず、情報機器解析(いわゆるフォレンジック)、法学鑑定(刑法、刑訴法の研究者に意見を求める)まで幅広く活用が可能である。

刑事弁護に関心のある層でも案外、知らないようで、本欄でも紹介することにした。活用し、(他会には)真似て頂きたいと思う。「それは専門家に相談すべき案件だよね」と助言して「でも国選で費用が・・自腹しか・・」となるのは、結局の所、その被告人を見殺しにし、刑事裁判全体を停滞させるので、宜しくないのである。

余談だが、私が刑事弁護委員会に在籍中、「こういうのがあればいい」と考え、会の力を借りたものとして、この基金、協力医名簿、量刑データベース、準抗告事例集(はやくも第三刷がかかったということである)等がある。正常に運用できる限り、会の力には端倪すべからざるものがある。会務は,義務的に受け止めるより、一緒に理想を実現していくという捉え方をするのが重要だと思う。

(弁護士 金岡)