例えば同種手口で被害に遭った被害者が50名やそこら、いるとして、うち数名分だけが起訴されたとする。被告人は、その手口は騙すようなものではなかったと主張している。
否認しているからには(起訴された)被害者に働き掛ける現実的可能性があり、実効性もある、として、保釈の4号除外事由を認めてよいものだろうか。

起訴された被害者との関係はさておくとして(これを軽々に認めるのは裁判所の悪癖だ)、「50名やそこら」のうちの数名だけに働き掛けたところで、大勢を覆すには到底、及ばないだろう。
近時の保釈準抗告(事案は本質を損なわない程度に改変した)で、そのような指摘をしたところ、「・・被告人が多数の被害者に接触するのは現実的に困難であると考えられることなどによれば・・実効的な罪証隠滅行為がなされるおそれが高いとまではいえない」として認容された(名古屋地決2019年7月31日)。
記憶の限りでは珍しい部類に属する説示かと思うが、ごく常識的な発想だろう。

余罪を含む被害者は多数だから4号除外事由があると言ってみたり、判明している資産からすれば(起訴された数名だけの)買収工作は可能だから4号除外事由があると言ってみたりと、定見なく場当たり的な主張を展開した検察官と、それに踊らされた原審裁判官は、反省すべきだ。
なお、この事案は本欄本年7月28日「やはり消費者加害の匂いを感じる刑事弁護」の続きでもある。件の「刑事弁護に強い」を標榜する弁護人は、起訴直後、「被告人は無罪を争わない」という(日本語としてもどうかと思うが)被告人の意思に反する内容の保釈請求を出し、しかも却下され、あまつさえ準抗告もせず放置した。私が交代して、争う方針を明確化した上で疎明資料を作り込み、2週間で無事に覆せたわけだが・・これ以上、消費者被害が拡大する前に、「刑事弁護に強い」の看板を一刻も早く下ろすよう強く勧告したい。

(弁護士 金岡)