表題は茶化した感があるが、特に3つ目は深刻な問題である。
何れも名古屋地裁刑事第6部(田邊三保子裁判長)の近時の事例より。

【1】
月曜午後早々に保釈却下に対する準抗告を提出する。
夕方「今日は判断は出ません」と言われる。
火曜午後、裁判官と電話面談。遠方から迎えにくる身元保証人のことを考えると火曜中に無理をされても困るので「水曜午前から待機させます」と、更なる翌日送りを容認。裁判所は「午後に係るかも知れません」とのこと。
水曜日。待てど暮らせど連絡が来ない。何度か連絡を入れるも「判断時期の見通しは分からない」の一点張り。午後4時を過ぎて別用で裁判所に行くと「判断が出たようです」と他部の書記官から教えられる(準抗告認容)。

・・余りにも遅い。2日半もかける話だろうか。
せめて、3日目に入ってからは随時、求めに応じて状況説明をするとか、遅れている理由を説明するとか、もっとこう、利用者目線の対応が出来ないものか。認容するならするで、もっと早く出られた依頼者の立場も勿論、考えて頂きたいが、理由あって遅れるなら理由をきちんというのが基本ではなかろうか(我々が期日変更を請求する時に、具体的理由なしでは済まされないが、高見から判断を下す側は、そういうことはお構いなしなのか)。

【2】
期日での検察官の釈明不足がひどいため、整理手続を申し立てる、と宣言し、書面提出まで2週間、それを受けての次回期日までもう1週間、ということになった。
釈明不足を理由とした付整理手続請求だから、期日での遣り取りが肝であり、期日調書の謄写を待って起案しようと思っていると・・待てど暮らせど調書が出来ない。連続3日、催促して、ようやく期日から2週間丸々で調書が出来、謄写が出来た。
お陰様で、起案は「書面提出まで2週間」の期限を守るどころではなくなった。

・・求釈明に関する応酬があった、それなりに緊迫した法廷であったから、期日調書を慎重に作りたいという要請はあったのかも知れない。しかしたかだか2頁程度の遣り取りを整理するのに2週間。みんなで決めた「書面提出まで2週間」を物理的に守れなくする程の、どんな事情があったのだろうか。
やはり、遅れるなら遅れるで、それなりの理由を言ってほしい。高見、故なのか、黙りの美学なのか、なんだか知らないが、こうやってギスギスするだけでも、決して望ましいことではなかろう。

【3】
今度は本欄の盛岡地裁・処置請求を巡る一連の遣り取りを思わせる問題事例である。

警察官証人3名を尋問する前提の証言予定が余りに薄く(肝心の部分が4行とか)、5か月前から問題視するも対応がないまま尋問期日(期日1)が指定された(被告人質問はその15日後に指定された(期日2))。そこで、「これ以上に具体的な証言はないと言うことで宜しいか」という念押しを入れると「補充します」と。そのため(検察官の公判準備のため)、期日1は延期された。
そして、期日2の12日前に証言予定が補充されたが、例の4行の部分が40行相当に詳細化され、初登場の話題も複数、見受けられた。更なる証拠開示も必要と判断され、その旨の進行意見を提出するも、裁判所は期日2での警察官尋問を強行するというのである(なお、所要の求釈明に対する回答は期日2の4日前に届いた)。

反対尋問の基本が分かっていれば、これがどれほど無理のある展開か、分かりそうなものである。主要な証言部分が10倍に増え、それが3名いるわけだから、証拠開示と、仮説の検証は相当、複雑化する。期日2の12日前、4日前と次々と情報が増える中で反対尋問に突き進む弁護人が果たしているだろうか?(特に4日前の新情報は、尋問期日当日まで被告人に届かないほどである)。検察官の攻撃準備のために期日1を延期するなら、弁護人の防御準備のために期日2を延期するのは、そういう要請があれば、やむを得ないだろう。
なのに裁判長は「反対尋問は出来る」という。当の弁護人が「できない」と言っているのだから、尊重すべきだろう。反対尋問を司るのは弁護人であって、裁判所ではないのだ。

やむなく、期日指定に対する異議、ついで忌避と、持てる手段を最大限繰り出したが、当然、取り合われない(余談だが、事前の進行意見から当然、このような展開が予想されたわけだが、法廷には端から速記官が鎮座ましましており(盛岡の時と同じだ)、その時点で裁判所の「聞く耳を持たないよ」という腹は透けて見えたわけだ)。最後は被告人が「腹をくくり」、期日2はお流れとなった。

裁判長は各証人に詫びていたが、腹をくくらせるまでに追い込んだ被告人に一番に謝罪すべきだろう。また、「刑事弁護ビギナーズ」あたりの、刑事弁護技術の導入書を、この夏の間に読むことをお勧めする。高いところに座っていて、見えることと見えないことがあるだろうが、反対尋問準備に適した状態かどうかは、「見えない」部類に相違なく、弁護人ができないというからにはそれなりの理由があるのだろうという、常識的な訴訟運営をして貰わなければ困る(まして、予め速記官を着席させて、袈裟の下から鎧を出すような真似はすべきではない)。

【まとめ】
ということで、遅すぎたり早すぎたりの横暴な訴訟運営事例を掲げたわけだが、なんとこれが全て、この一月(というより2週間強)の間に起きているから驚かされる。
権力者こそ、柔軟、謙抑を、心がけるべきだろう。強硬、強面に振る舞っても、芯の通った刑事弁護人は、憲法上の防御権が侵されることに決して黙ってはいない。
刑事弁護人が、やむなく取り得る手段を駆使して抵抗すれば、訴訟運営は逆に硬直化し、行き着くところ、被告人が腹をくくって期日がお流れになるような始末になる(事例3について言えば、検察官に証言予定の補充機会を与えて期日を延期したのと同様、弁護人にも同じだけの防御機会をきちんと保障するという、文字通り武器対等の訴訟指揮を心がけるだけで、1~2か月後には尋問に入れただろうに、被告人に腹をくくらせたがために、数ヶ月先まで見通しは不透明になるだろう・・実に実に馬鹿げているし、迅速な裁判を受ける権利保障はどこへやら、である)。

(弁護士 金岡)