「三行半」は、いうまでもなく、理由を示さず上訴を退ける最高裁への揶揄である。ここのところ、心血を注いだというべき上告趣意書を2~3週間で退けられることが続いている。無論、下級審段階でそれなりに充実した審理(判断はひどいものだとしても)がされていることから、最高裁における審理期間の長短をとやかく言うものではないが、「出所後、間もない薬物使用の再犯事案で、量刑不当一本で上告した場合」の方が審理期間が長かったり、上告棄却決定に対する異議申立の審理期間とどっこいどっこいだったりするから、流石に「調査官すら碌に検討していないのでは」と首を傾げざるを得ないのが偽らざるところだ。

さて、ここに、わずか19日で上告を棄却された事案があるが、この事案は、山口厚裁判長の部に係属したところ、山口裁判長が任官前、関連する最高裁判例を否定する主張をされていたというところに特色がある。
詳細は「刑事法の理論と実務①」(成文堂)所収の拙稿の通りであるが、要するに、
・第1暴行と第2暴行とは一連一体である。
・第1暴行は正当防衛、第2暴行は過剰防衛である。
・構成要件結果(より重い傷害)が何れの暴行から生じたかは不明である。
という条件下に、第1暴行により生じた合理的疑いのある「より重い傷害」を「全体として過剰防衛結果」として処理する、という、最一小2009年2月24日決定について、山口説は「不可罰である第1暴行まで処罰の対象に含めることには問題がある」と批判していた。
そして、本件の事案は、構成要件結果が傷害致死結果の事案であり、つまり、「不可罰である第1暴行により生じたと認定せざるを得ない傷害致死結果を、第2暴行と一体で過剰防衛結果として処理して良いか」が問われる事案だった(第1審判決は、この論点を取り上げて最判法理を援用したから、事実認定上この論点が問題となる事案であることに争いはない)。

ところが、最高裁は(山口裁判長を戴いたにも拘わらず)僅か19日で、三行半で終わらせてしまった。
任官前の研究者が任官後に意見を変えようと、衆寡敵せず諦めて多数意見に与しようと、別段、批判すべきことではない。人間誰しも、間違いもあれば説を変えることもある。
しかし、裁判長の基本書に「不可罰である第1暴行まで処罰の対象に含めることには問題」と指摘されている論点について、(しかも最決の事案と異なり、より重い傷害致死結果について、)「不可罰である第1暴行まで処罰の対象に含める」からには、それなりの議論が戦わされたはずだし(それとも19日では「それなりの議論」すらなかったのだろうか)、それなりの議論が戦わされたのなら、(最高裁本体も勿論、対立がある以上は見解を披露すべきだろうし、ましてや山口裁判長御本人は)任官前の意見について真摯に決着をつけるべく、せめて補充意見で何か言うなり、したらどうなのか、と思う。「裁判官は弁明せず」というが、理由無しに結論だけ押しつけられて納得することがあるだろうか。理由のない裁判は、裁判の拒否だ。

・・それとも、件の山口説は、最高裁が一顧だにしないほど、安っぽく、説得力の欠片もないものだったということなのだろうか。だとすれば、その程度の研究者を裁判長に祭り上げた最高裁は、もっと安っぽい代物になるのだが・・。

ともかく、とても残念としか言いようのない三行半だった。

(弁護士 金岡)