勾留中の依頼者が指定感染症疑いとする。
弁護人の接見は控える必要があると言わざるを得ない。
取調べも進まないかも知れないが、少なくとも目まぐるしく変化する情勢に応じて適切に助言するべき接見が不可能なのだから、防御権はゼロの状態である。

この場合に、勾留決定や勾留継続、その他の強制捜査は許されるのだろうか。
これは決して思考実験ではなく、現実の問題として出現したが、裁判所の回答は「その他、弁護人指摘の諸点はこの判断(原決定は正しい)を左右しない」の一言であった(名古屋地裁刑事第4部、神田大助裁判長)。

上記実例では、逮捕翌日の初回接見が「指定感染症疑い」で空振りに終わり、その翌日に勾留決定、更に翌日に準抗告棄却、である。準抗告棄却時点で、指定感染症疑いについての確定診断は得られていない状態であった(本題から逸れるが、会話困難なほどの咳き込みと4日以上連続の所定の微熱がなければ検査しないという医療体制はお粗末に過ぎ、感染者数を抑制するための目くらましではないかと勘ぐりたくなる)。
弁選すら受領できない状態で(準抗告は便宜的に親族による選任に基づき申立資格を取得した)勾留され、準抗告のための打合せも出来ないのに、刑事手続が進むというのは得心がいかない現象である。
裁判所の認識は、「この段階では被疑者国選なら初回接見が間に合わない程度の時点であり、そうであれば不可抗力による接見不能が手続の瑕疵となることは有り得ない」程度のことであろうか。
しかし、既に選任意思があり受任意思がある被疑者と弁護人が揃っていて、しかし接見できない状態があるのに、指定感染症疑いで防御権をゼロの状態にされるのと、国選制度の制約下で弁護人不在とが同視できるか疑問である。もし、この理を許すなら、被疑者国選が間に合わない段階の私選弁護人の接見を徹底的に妨害しても「制度上、いなくても許容されているのだから問題ない」となるだろうが、このような見解は有り得ない。とすれば、既に行使可能な弁護権が行使できない状態は、やはり区別されるべきことになる。

裁判所は人権感覚、手続保障に鈍だなぁと、相変わらずの慨嘆である。相変わらず諦めずに言うが、「自分がその被疑者の立場なら納得できるのか」を考えて欲しい。上記準抗告棄却に対する特別抗告を三行半で棄却した最高裁も含め、だが。

(弁護士 金岡)