俗に「無罪六要件」とか「無罪七要件」と呼ばれる、無罪判決に必要な要素の一つが「良い裁判体」である。
全く同じ弁護を尽くしても、裁判体の善し悪しで結論が左右される。「悪い裁判体」を引いてしまった場合の言いようもない虚しさは実務家であれば誰しも経験していることではあろう(その中でも「死に神」だの1年で無罪を5件以上も破棄する強者だのが君臨する近年の名古屋高裁刑事部は度を超していると思うが)。

さて、最近、情報提供頂いた証拠排除の判決の一部は次の通りである。予め説明すると、任意捜査の段階で「退去してはならない」という虚偽説明をして留め置く捜査手法(捜査手法と呼べない代物ではある)の違法性評価である。

「さらに,虚偽の説明(註:「身柄引受人がいなければ戸塚警察署から帰ることができない」という説明内容)が,被告人の退去の自由を直接侵害するような内容である点で,悪質性の高いものであった。そうすると,警察官らが,被告人に携帯電話機の使用,喫煙,飲料の購入等を許していることを踏まえても,警察官らの違法行為が,任意捜査としての許容限度から逸脱した程度は大きいといわざるを得ない(なお,警察官らは,被告人を留め置くための有形力は行使していないが,それは,被告人が警察官らによる偽計により錯誤に陥った結果,強い抵抗を示さなかったことにも起因していると考えられるから,本件留め置きの違法の程度を低減させる事情とはならない。)」(横浜地裁2019年11月20日判決、他の要素も勘案して証拠排除の上、無罪判決としている)

かたや、私が担当した名古屋地裁刑事第1部の2018年11月28日決定は、次の通りである。
「たしかに,前記認定のとおり,被告人は,神原警察官から「待たないといけない」と結構強い口調で言われたこともあつて,その後は帰りたい旨言わなくなり,捜索差押許可状が執行されるまでの待機に応じていたことが認められる。しかしながら,・・・神原警察官の前記発言も,多少口調がきつかったとはいえ,その内容に照らし,説得の範囲に属するものであること,捜索差押許可状が執行されるまでの間法律上の待機義務がある旨積極的に被告人を誤信させようとしたとも認められない。強制捜査ヘ移行してから捜索差押許可状の執行までは約4時間が経過しているけれども,各種手続の実施のため必要かつ合理的な時間といえるから,その間待機させたことが不当とはいえない。」

一応、少しは法律を知っているはずの警察官が、任意段階で退去を求める被疑者に対し「待たなければいけない」と発言すれば、意図的に虚偽説明をして退去を阻止したことになるのは当然であるが、名古屋地裁は、これを「説得の範囲」と片付け、違法でないことはもとより、不当ですらないと評価している。
かたや、横浜地裁は、同様に、身柄引受人がいなければ帰れないとした虚偽説明を、違法であり、その逸脱度合いも大きいと評価している。

この違いはどこから来るのだろうか。
裁判体の人間性に拠ると考えざるを得ないと思う。ここまで当たり外れの差が大きいとなると、それを公平な裁判と呼ぶことは無理だろう。

(弁護士 金岡)