私的鑑定(当事者鑑定)の協力医が、刑事施設に収容されている依頼者と面会する場合に、どのような環境を用意できるか。

一般面会による限り、「施設職員が立ち会う」・「アクリル板越し」・「短時間」の各制限を免れないのが原則であるが、往時は、私が名古屋地裁のあらゆる刑事部で実践したように(季刊刑事弁護55号108頁以下、高田知二「市民のための精神鑑定入門」第6章)、裁判所からの連絡要望により、協力医が刑事施設内の取調室を利用し、上記各制限が一切かからない環境を利用できていた。しかし、反動というべきか、2009年8月21日、法務省矯正局成人矯正課補佐官(処遇1係)の事務連絡が発出され、このような特別扱いを原則否定し被収容者処遇法上の一般面会として遇するよう注文が付けられ、事態は一変した。
その後は一進一退の攻防が続き、私個人の実践下においても、時間制限はなんとかなるものの(2時間までは問題ない)、立ち会い・アクリル板はどうしようもない、という膠着状態が続いていた(以上については「実務体系 刑事弁護2」所収の拙稿で整理している)。

ところが、今般報告を受けた実践例は、興味深い展開を見せた。
弁護人が、少なくとも2時間を要求する申し入れを行ったところ、拘置所側から、要旨「①弁護人が同席するのであれば、②弁護人接見室で、③時間無制限で実施可能」「④その場合は職員も立会しない」という提案があったというのである。

上記の取扱いを理論的に説明すれば、「弁護人と協力医が2名で一般面会を行う」ものではあるが、刑事施設長が、被収容者処遇法に基づき無立会とし、かつ、時間制限も行わない裁量許可を行った、ということになるだろう。「刑事施設の規律及び秩序を害する結果並びに罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがないと認める場合」は無立会許可が出来るし、時間制限を行わないことも合理的裁量に属する(③④)。
そして、刑事施設側から見ても、時間制限を行わない面会は、時に混み合い部屋の取り合いになる一般面会室より、余裕のある弁護人接見室の方が望ましかろう。一般面会を弁護人接見室で行うのに、特別の許可を要するとは思われないが、弁護人の同席があった方がそうしやすいので弁護人同席を求めた(①)・・のか、あるいは前記「刑事施設の規律及び秩序を害する結果並びに罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがないと認める場合」要件を充足させるために弁護人同席を求めた(①)のか、それは分からないが。
弁護人接見室にはそもそも立会職員用の椅子もないが、長時間の立ち会いは人員配置的にも避けたいものがあるのだろうし、弊害もないとなれば、無立会は自然な成り行きである。

弁護人の立場からすると、結構な時間を割かなければならないのと、あと、本来であれば被疑者被告人が腹蔵なく協力医に話をするのに弁護人が時に邪魔になるかも知れない、という引っかかりはあるものの、その点を除けば、悪くない話ではある。
アクリル板は、まだいかんともしがたいが、一つ一つ、乗り越えていくというのも悪い話ではなかろうと思われた。刑事施設側も、ある程度の時間確保を行わなければ合理的裁量を逸脱したとして訴えられかねない御時世、しかしさりとて一般面会室ではお互い窮屈なので、弁護人接見室でお好きにどうぞ、という苦肉の策かも知れないが、歓迎すべき展開であろう。

なお、報告によれば、公認臨床心理師も、同様に扱われたとのことであった。

(弁護士 金岡)