事案を簡略化すると、施術を装って性的行為を行ったとされる準強制わいせつの事案である。
第1審における検察官の主張の出来が宜しくなく、整理手続が長期化し、最終的に、何をもって抗拒不能を主張するかについて「主要な意図が性欲を満たす意図であったのに、これを秘して、施術であると信じ込ませたこと」と整理された。
判決までに3年を要したが、第1審判決は、主要な意図が性欲を満たす意図であったことに合理的疑いが残るとして、抗拒不能を否定し、無罪とした。
これに対し検察官が控訴し、事実誤認を主張すると共に、更に、「主要な意図が性欲を満たす意図であったこと」は抗拒不能の要件ではなく、例えば(要旨)抵抗する暇を与えず性的行為に及ぶような場合、主要な意図が性欲を満たす意図であったとまで言えなくとも抗拒不能に該当し得るのであるから、主要な意図が性欲を満たす意図であったことに合理的疑いが残るからといって、直ちに抗拒不能を否定した原判決には法解釈の誤りがあると主張した。
一見して分かるように、3年(整理手続終結までに2年半)を費やして検察官の主張を整理し、その立証命題が(抗拒不能との関係では)主要な意図が性欲を満たす意図であったことと整理されたのだから、裁判所がこれを否定した時、抗拒不能が否定されるのは当然であり、上記検察官の控訴趣意は「逆ギレ」そのものであった。
しかも控訴審の検察官は、公訴事実が「施術を受けるものと誤信して抗拒不能の状態」とされているのを放置して、抵抗する暇を与えない類型の準強制わいせつを主張しており、ここまで低次元の訴訟行為もそうそう見受けられないと呆れる程であった。
勢い、弁護人としては、上記のような控訴趣意はそもそも、公訴事実と異なる事実関係に対して有罪を求めるもので違法、整理手続経過を踏まえて主張制限されるべき等と、裁判所に陳述制限を求めたのであるが、なんと裁判所は陳述を許可した。
このように違法な主張の陳述を許可した裁判所が、さて検察官控訴をどのように処理したかというと、判決文は次の通りである(名古屋高判2025年10月21日)。
「検察官は、控訴趣意書及び同補充書で、・・被告人の主要な意図が性欲を満たす意図であつたか否かにかかわらず、準強制わいせつ罪が成立するといえる旨主張し、このように主張することは、原審の公判前整理手続において・・旨整理されている趣旨を逸脱するものではない、として、その立証のために・・再度の証人尋問を請求したが、このような当審における主張の変更と立証を許すことは、2年以上をかけて公判前整理手続で争点整理を行つた趣旨等を著しく損なうものであり、受け入れることができない。」
つまるところ、主張制限に服するというのである。
じゃあなんで陳述は許可したのか?意味が分からない。
公訴事実とすら矛盾する控訴趣意の陳述は手続段階で処理すべきだろう。主張制限に服するという場合も同断である。違法な訴訟行為(控訴趣意の陳述)を容認する訴訟指揮は結局、違法なのだから、あってはならず、こういうことを平然と行い、弁護人の異議等に耳を貸さない裁判所に対する信頼は(そもそもどの程度あるかは別として)益々低下する一方である。
結論はともかく(検察官控訴は棄却された)、適正な訴訟指揮という意味では落第点としか言い様がない。
(弁護士 金岡)

















