用便を済ますのに17回も挙手して許可願いをしなければならないような刑務所の不合理さを取り上げた書籍、という感じの宣伝文句を受けて入手はしたものの、見事に積ん読状態になっていた掲記の書籍を漸く読んだ。
獄窓記のような趣向と期待していたのだが、どちらかというと、著者が刑務所で何を考えたかに重きが置かれており、矯正施設処遇を批判的に捉え直すには不十分であった。(勿論、これは私個人の勝手な期待が外れたと言うだけで、書籍に対する批判ではない)

強いて、読みどころを取り上げるのであれば、第一に前記17回挙手の挿話の類。
第二に、余り役に立たない資格しか取得できないとか、古い貸出図書しかないといった現場の貧困。
第三に、(益々、方向は違ってくるが)捜査機関が事件の筋書きを決めつけてくる汚い手口について、であろうか。
矯正施設にせよ刑事施設にせよ、捜査にせよ、実地に体験する訳にもいかないので、様々な体験談はそれだけで貴重ではある。

冒頭に記したとおり、この手の書籍の草分けにして、未だ燦然たる価値を持つのは、やはり獄窓記だと思う。弁護士登録間もない時期であったこともあっただろうが。
余談だが、獄窓記の続編というべき「累犯障害者」はピンとこなかった。同じく駆け出しの時に読んで衝撃を受けた「刑事裁判のこころ」(木谷明)も、その続編「刑事裁判のいのち」はピンとこなかった。
良くも悪くも思いの迸る一冊目が良いと言うことか。

(弁護士 金岡)