基本的に個人個人が経験を蓄積するだけであり、組織的に専門的な研究を行うわけでもない弁護士と、予算を取って専門的な研究を行い、それを組織的に共有する捜査機関とでは、残念ながら能力にどんどん開きが生じることは避けられない。
せめてもの差を埋めるためには、素直に捜査手法に学び、応用していく必要がある。

ということを思ったのは、最近、複数の事件で、「シグナルから消えた履歴を、ホーム画面通知から拾い集める」という捜査手法に感心したからである。
シグナルは秘匿性の高い通信アプリとして知られており、設定時間を経過すると、その履歴確認は先ず不可能になる。
これは、弁護側にとっても非常にもどかしく、依頼者に「その遣り取りは何処に?」と尋ねて「シグナルなので消えました」と言われると、身の証を立てる手段が失われてしまうことにもなる。
この点で、捜査機関は少なくとも2年以上も前から、シグナルそのものからは無理でも、シグナルに届いたメッセージがホーム画面通知によりホーム画面に送信された履歴を拾い集めて、全部ではないにせよ、出だしの十数文字程度を解析するということを行っているようである。専門的なことは分からないが、おそらくホーム画面通知を管理する機構は、シグナルとは別系統で、そのため、シグナル側で当該メッセージが消えても、ホーム画面通知側ではそうはならないのだろう。
言われてみればなるほどであるが、これまで、協力を御願い出来ていた民間の技術者に、こういった視点の相談を持ち掛けたこともなければ、そういう提案をもらったこともなく、素直に感心したものである。

本欄2025年12月3日で、二弁のデジタル証拠研修について紹介したが、いわゆるUFEDデータにせよ、各アプリが持ち合わせる情報にせよ、一介の弁護士が経験しうるところは捜査機関に適すべくもなく、捜査機関の手法に学び、持ち寄り、我が物としていく研鑽が不可欠である。

ついでに、おそらくであるが、ホーム画面通知からシグナルの断片集めを行うことは、ホーム画面通知自体を敢えて保存する仕組みが想定されないことからすれば、時間が経てば経つほど、難しくなる(上書きされて消えていく)のではないかと思われる。
とすると、押収されたスマートフォン端末を取り戻したところで、上書きが進むだけ、押収された当時のデータより「劣るとも勝らない」ことは請け合いである。検察官は、押収した当時のスマートフォン端末の保全データは保存されていないと主張することがあり、しばしば揉めるが、このように押収当時の保全データの証拠価値が高いことを考えると、捜査機関が作成したスマートフォン端末の保全データの保管要領を作成し、恣意的な削除を阻止し、弁護側でも同データの開示を受けられる防御権を保障することが急務であると思う。

(弁護士 金岡)