刑事弁護ビギナーズが世に出てからこの方、現代人文社が「なんとかビギナーズ」を陸続と刊行している感がある。概して、単なる初心者向けではなく、そこそこ理屈を書き込んだり、突っ込んで実例を取り上げたりと、初心者では通読するのが少々しんどい程度の書籍である。
刊行前に少し意見を述べる機会を頂いた縁で届いていた掲記「障害者弁護ビギナーズ」を、本欄で取り上げようと思って一月ばかり放置していたが、今回、漸く取り上げることとした。

本書は、その名の通り、障害者弁護の観点から編まれている。刑事弁護ビギナーズ以来の伝統である巻頭の名物弁護士インタビューも、その道の先生方が登場している。
刑事弁護の技術書と見ると、率直に物足りないところが多く、その分野その分野でこれ一冊で対応できるというわけではない(そのあたりは読み飛ばしても差し支えない、というのが個人的感想)が、障害者弁護の観点から必要な知識を最低限、網羅できている上に、独自に突っ込んだ記述がある部分が光るので、実際上、刑事弁護に手慣れた向きに得るものがある。

例えば92頁「障害のある人の量刑事件弁護のケースセオリー」の項目。
書かれている発想自体は、障害特性から事件を読み解き、見合った環境調整を行い、必要な知見を隣接諸科学から借りてくるという、前々からあるものだが、実に20頁近く(書籍全体の10%近く)(実践例30頁分を含めれば書籍の4分の1を占める勢いである)を割いて更生支援計画の活用と実践への言及があるところが、参考になる(刑事施設における専門家面会にも分量が割かれているが、昨今の潮流も考えると、保釈の取り方についても解説があると更に良かったと思われる)。裁判官がこの箇所を読めば、少し懐の広い訴訟指揮が出来るようになるのではないか。

刑事事件から派生していく手続への目配りがまとめられているのも、良いところである。
153頁以下「刑事手続後」の項目、遡って141頁以下「精神保健福祉法」の項目あたりは、「判決後は知らない」では許されない今時、一度は確認しておくべき知識といえる。

裁判実務家であれば、誰しも「獄窓記」が伝える内容、受刑者に占める知的障害者の割合には衝撃を受けたのではないか、と思われる。
「獄窓記」の投げかけた問題意識には必ず応える必要がある。未だ、その必要性は解消していない。このためには、刑事弁護に手慣れたと自負する層に、一読を勧めたい。

(弁護士 金岡)