刑事施設に収容中に自身に対し行われた医療行為について、医療情報の開示を個人情報として請求できるか。世間一般で考えれば、通院先からカルテ等の開示を受けることに何らの支障も無いが、刑事施設が相手となると、ことは簡単ではない。行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第45条が除外規定を置いているため、「刑事事件に係る裁判に係る保有個人情報」或いは「刑の執行に係る保有個人情報」これに該当するとして不開示にされるのである。
受刑者が熱を出して解熱剤が処方された、という場合、果たしてこれが、刑事事件や刑の執行絡みで得られた医療情報と評価すべきだ、等と考える向きはいないだろう。故に、その実質を見る限り、上記不開示が発動する場合は極めて例外的であることは常識的に明らかであるが、矯正局は、この形式論で不開示を繰り返す。結果、一般社会との隔絶は甚だしく、一般社会と差異を設けるべき理由のない医療情報の開示について、甚だしい不合理が生じる。

私も、未決の依頼者が自身の血液検査結果を知りたいという案件で、まずは個人情報開示を試して不開示になり、最終的に弁護士会照会で開示を受けられた経験を持つが、悔し紛れに弁護士会照会において「刑事事件と無関係の医療情報が『刑事事件にかかる裁判又は刑の執行にかかる保有個人情報』に該当するというのは拡大解釈も甚だしく受け入れがたいものである」という捨て台詞を書いたものだ(当然、さしたる意味は無いが)。

さて、掲記判決は、既決の被収容者との関係で、血液検査結果、投薬内容、診療録全般の同法に基づく開示請求を逆転で認容した、画期的なものである。
結論の妥当性において、この種の情報を不開示にすることは現代的に考えられないのだから、余りに当たり前の判決であるが、知られている十数例の裁判例の全てが不開示を追認しているというのであり(弁護団情報)、故に画期的である。

気になるのは寧ろ理由付けの方である。結論の妥当性が得られていても、理屈面が底抜けでは宜しくない。
この点、裁判所は、「法45条1項を形式的に適用する限り・・診療情報は、そもそも開示請求の対象とならず」として、形式的には法45条1項による除外の対象であることを認め、その上で、そのような事態が、規制目的の合理性・規制目的と規制手段との合理的関連性の見地から捉え直される必要があると論じ、一律不開示とする法45条1項の規制手段は、目的達成のための合理的均衡を欠いている、と断じている。
その結果、法45条1項は無制限に適用できず、「診療情報には適用されないと解釈すべき」との限定解釈を採用した。同判決の定義する「診療情報」とは、「医療従事者が診療の過程で取得した個人情報」であるという。要するに、実質一般病院と異ならない部分では、同様に扱えと言うことであろう。

刑事施設に収容されているというだけで、特異な取扱いが罷り通る。
特別権力関係など過去の遺物だと嗤えないことは、勾留関係が被勾留者の意思に関わらず形成され、法令等の規定に従って規律される関係であることを理由に安全配慮義務の成立を否定した、最一小2016年4月21日判決をみても明らかである。
今回、既決の被収容者との関係で、実質一般病院と異ならない部分では、同様に扱えと高裁が明言した意義は、やはり大きかろう。

(弁護士 金岡)