この秋は整理手続研修の依頼が4件あり、なかなかに盛況である。
久々に初訪問の単位会も含まれ、手元の集計によると研修のために行ったことのない地域は都道府県単位で18になるように思われる。

研修レジュメは、「秘伝のたれ」宜しく、改訂を重ねて使用し続けているが、そろそろ大改訂したいという誘惑にしょっちゅう、駆られる。
例えば、初期の研修では、「電話の受発信履歴をいかに漏れなく開示させるか」「ネガフィルムの開示について」等も取り上げていたが、今時では「UFEDデータ」「デジカメデータ」の話題が主流で、ネガフィルムの開示などは話題にする価値に乏しい(とはいえ、知らないでは済まされないところなので触れはするが)。
十年一昔、とはいうが、研修毎に新たな要点や事例を追加していかなければ、ものの数年で使い物にならなくなるのは必至である。

「UFEDデータ」は、要するに被疑者被告人のiPhoneやiPadの物理コピーデータである。部分的に捜査機関が証拠化してきたものが適切に取捨選択されたものなのか、それとも事実関係を歪曲させるものなのか。こちらから有利に使うべきものはないのか。調査を徹底するには開示を受けるしかない(テラバイト級の証拠開示が何件も続くと、負担感はひどく、今の国選報酬体系では到底、見合わないだろうと思う)。

最近、よく感じるのは、検察側の証人予定者(被害者や目撃者が典型である)のiPhoneやiPadも、被疑者被告人と同様、丸ごとデータで開示を受けるべきが本来である、ということである。
例えば「被害者が被害後まもなく、被害相談をしているから、被害主張は信用できる」という主張と共に、その手のLINEメッセージなどが証拠請求される。最近の捜査機関は、事件日から当該部分までを漏れなく写真撮影するくらいは意識している。
しかし、他の人とのLINEメッセージでは全然違う内容であったりするかもしれない。「後足」を有利に援用するなら、全部の「後足」を開示させるのが筋であろう。被疑者被告人は、文字通り全データを解析されて丸裸にされ、様々な人格「評価」を受ける。被害者をはじめとする検察側の証人予定者が、裁判の証拠方法という視座に於いて、それを免れるべき理由はない筈である。

このような問題意識が正しいことは異論を見ないと思うが、現実には、前記捜査機関が有利に援用したい部分のみが証拠化されるに止まり、被疑者被告人のような全データ保全は行われていない。開示請求しても、「不存在」と返され、さほど成果がないのが大半である。

とある事件では、被害者の「後足」の信憑性が争点となり、整理手続終盤、被害者からiPhoneを再提出させてLINEメッセージの全部解析を行わせることに成功した。反対尋問には大いに参考になった。
しかし、事件から相当期間が経過し、被害者にも当然、有利不利の区別はできる。検察側から「こう言う点を攻められている」という説明もあるだろう。そうすると、整理手続で争点がある程度、明らかになってから漸く、全部解析をしても手遅れである。
裁判所が、このような構造的な不都合性を証拠評価に反映させれば、捜査機関も意識改革を迫られ、捜査の序盤で被害者らの端末データの保全を行うようになるだろう。そのためには先ずは弁護人が、意識的に証拠開示を活性化させる必要があると思っている。

(弁護士 金岡)