本欄本年6月6日、6月27日付けで、10ヶ月の準備期間を経て集中審理入りした非整理手続事件で、検察官が実況見分担当官の具体的な証言予定の開示を拒否したことを紹介した。このような検察官(塩村広子検察官)も、(訴訟指揮に基づく開示命令や、少なくとも説得を試みることはおろか、)これを許し、「即日の反対尋問は求めない」という本末転倒な訴訟指揮を行った三芳純平裁判官(岡崎支部)も、後世に残されるべき物笑いの種を提供したと言えようが、本記事はその後日談である。

本欄末尾に、実際の尋問録を例の如くOCR処理して貼り付ける。
解説を三点、加える。

1.弁護人としては、未開示の尋問が出る度に異議を申し立てざるを得ず(違法な手続に対して責問権を放棄することは弁護人の職責に反する)、すると検察官は「準備的事項」「前提事項」との抗弁を繰り返し、裁判所はそれを追認するという寸劇が繰り返された。
準備的事項とか前提事項という意味は良く分からないが、未開示の証言予定が証言されることを免責する理由にはならないだろう。

2.このような寸劇の果てに、裁判官は遂に、「先ほどから同趣旨の異議が重ねられてますけれども、事前の開示がなければ、質問ができないということではありません。そういった趣旨の異議は、今後認めません。」と宣言した。
このような姿勢は、裁判官としては最低の姿勢に属する。
「今後、A説による申立は認めません」として裁判自体を拒否することは、憲法の保障する裁判を受ける権利に反するし、あきらめずに説得を重ねることで遂に判例変更に結実した案件が幾多もある歴史を見る時、「(少なくとも)自説は曲げません」と言い切る裁判官は、5段階評価でマイナス評価が相応しかろう。

なお、自説を曲げない宣言のあと、一度だけ、三芳裁判官が異議を「却下」したことがある(誤変換ではない)。同じ理由に基づく異議は不適法だ、という発想だったのだろうと思う。いよいよ、裁判官をお辞めになるべきだろうと思う(自説を曲げない裁判官への説得をあきらめる方は他の法曹にも向かないので、少なくとも弁護士登録をも止めて欲しい)。

3.収録部分の最後の弁護人の異議は、「ひょっとすると伝聞かもしれない」というものである。具体的には、複数の警察官の誰が撮影担当であったか、事前に開示がないため、誰が撮影したかについて分からず、伝聞の疑いがある、という異議である。
証言予定の開示がないことの弊害は如実だろう(あらゆる質問が二度繰り返される馬鹿馬鹿しい裁判であったこともそうであるが)。証言予定を事前に把握していないから、疑義があると異議を出さざるを得ない。無駄な異議が増え、裁判官は尋問に集中できない。直接主義口頭主義に基づく心証形成が妨げられる。馬鹿馬鹿しいことしかなく、気の毒なのは被告人その人である。

三芳裁判官は、集中審理を可能にするために証言予定開示義務が整理手続に導入された趣旨をどう考えているのだろうか。刑訴法はもともと、連続的開廷を義務付けており、しかし諸制度がそれに追いついていなかったために五月雨式公判が横行し、その反省の下に相対的に短期間で集中審理に入るべく、整理手続が創設されている。
五月雨式公判は、被告人は勿論、法曹三者、裁判関係者の誰にとっても不利益な代物であり、無論、あらゆる点から集中審理が望ましく(決して裁判員を速やかに裁判から解放するために集中審理があるわけではない)、刑訴法がもともと、その方向性を志向する中で証言予定の開示制度が創設されたというのに、「反対尋問は次回で良いから、証言予定の開示を命じない」「証言予定の開示がなくても尋問を認める」という訴訟指揮をすれば、誰にとっても不利益な五月雨式公判に戻るだけである。

この意固地にして、裁判官としての適性を(疑うと言うよりは)欠くと断じざるを得ないどうしようもない訴訟指揮と、それへの異議申立が延々と続いたこの公判は、世の物笑いの種であろう。
無論、嗤われているのは、三芳裁判官であり、このような裁判を許している司法そのものである。

(尋問録)
検察官:証人は、今回の事件発生後に、O警察署に異動されてきたということですが、Pの写真撮影をする前には、今回の事件について、どの程度把握されていましたか。

弁護人:異議があります。証人がPの写真撮影をする前に、今回の事件をどの程度把握 してたかということについては、具体的な開示を受けていません。

裁判官:御意見いかがでしょうか。

検察官:準備的事項と思料いたします。

裁判官:異議は棄却します。どうぞ続けてください。

(検察官が質問を繰り返し、証人が答える)

検察官,:では、写真撮影した状況について聞いていきます。証人は、何人の警察官でPに行きましたか。

弁護人:異議があります。同行した警察官の人数については、具体的な開示を受けていません。

裁判官:いかがでしょうか。

検察官:準備的事項です。 ′

裁判官:異議を棄却します。

裁判官:先ほどから同趣旨の異議が重ねられてますけれども、事前の開示がなければ、質問ができないということではありません。そういった趣旨の異議は、今後認めません。異議は棄去します。

弁護人:今のは要望ですか。命令ですか。

裁判官:要望です。

弁護人:要望ならお断りします。

裁判官:異議の結論についての予告したものですので、重ねての異議ということはされ ることは禁じませんけれども、あらかじめ裁判所の方針を伝えておいたという趣旨です。

弁護人:今の裁判所の方針について、ひと言申し上げておきます。異議というのは、全て個別の裁判事項ですので、あらかじめ結論を予告するというのは、異議の内容を聞かずに、つまり結論をあらかじめ決めつけてるという不公正な態度であって、裁判官が取る姿勢 とは思えません。

(検察官が質問を繰り返し、証人が答える)

検察官:一緒に行ったのは誰でしたか。

弁護人:異議があります。同行した警察官の具体的名前を事前に開示を受けていません。

裁判官:先ほどと同じ異議ですので、却下します。続けてください。

(検察官が質問を繰り返し、証人が答える)

検察官:証人らは、Pにいったあと、何をしましたか。

(証人が答える)

検察官:誰がPの撮影をしましたか。

弁護人:異議があります。具体的に誰が写真を撮ったかについては、証言開示を求めていますが、具体的な開示がありません。

裁判官:御意見いかがでしょうか。

検察官:こちらも、開示がなければ証言、質問してはいけないというものではないと思いますので、異議には理由がないと思料いたします。

裁判官:では棄却します。

(検察官が質問を繰り返し、証人が答える)

検察官:証人らは、この日、何台カメラを持参しましたか。

弁護人:異議があります。使用されたカメラの台数は、具体的な開示を受けていませんし、現場写真についての証拠開示も求めていますけれども、複数のカメラからの写真が撮影 されたという話は、カメラ写真のデータとしての開示についてもありません。

裁判官:御意見いかがでしょうか。

検然官:これも前提事項です。

裁判官:異議は棄却します。

(検察官が質問を繰り返し、証人が答える)

検察官:そのカメラを使つて、先にPの写真撮影をしたのは、誰でしたか。

弁護人:異議があります。今の尋間に関しては、ひょつとすると証人の直接経験を聞いているのかもしれませんが、証人が知らない、つまり、先ほど出たN警察官に頼んだ方の話かもしれませんので、伝聞証言を求めてる疑いがありますから、具議があります。

(弁護士 金岡)