20年、刑事弁護に真面目に取り組んでいても、未経験のことは多い。というよりも、やればやるほど、経験しないこと、知らないことだらけだということを思い知る。そういう時は、基本に立ち返って芯の通った考え方が出来るか、そして、どこまで調査の幅を広げられるか、であろう。どの職業でも同じようなことが言えるのだろうが。

件名は、現在、係争中の案件であり、今のところ結論は出ていない。
略式決定をした裁判官がその後の審理を担当することは「除斥」事由だから出来ないが、逆に略式不相当決定をした裁判官がその後の審理を担当することはどうなのか、という問題である。
略式不相当決定理由は色々あるが、色々あるだけに、無罪心証かも知れないし、有罪心証かも知れない。有罪心証を疑わない理由がない。不同意にすべき甲乙号証を読み込み、有罪心証を形成したかも知れない裁判官に続投を許すことは、「芯の通った考え方」即ち予断排除、裁判の「公正らしさ」に照らし、有り得ないだろう。

しかし、担当裁判官に回避を拒否されたので、やむなく忌避を申し立てたところである。既に同じような着眼点で上告した先人はおり、憲法37条1項違反ではないとされているが(最一小判決1953年2月19日)、その事案は、通常審理移行後において弁護人が忌避を申し立てていない(続投を受け入れていた)という経過がある上、一人の裁判官が簡易裁判所裁判官と地方裁判所支部裁判官とを兼任している事案であったという事情もあり、何れも本件とは事案を異にする。
調べていくと、上記のような戦後間もなくの裁判例には異論が多い。平野、田宮といった大御所が批判的意見を述べている論文を紐解いていると、(不謹慎かも知れないが)楽しい。糺されるべきものに向き合えるのは弁護士冥利に尽きるだろう。

(弁護士 金岡)