裁判員が露骨なまでに黙秘への嫌悪感を示した、公式議事録である。
https://www.courts.go.jp/wakayama/vc-files/wakayama/file/SAI_H30_0131.pdf
(和歌山地裁、2018年1月31日開催)
黙秘に対し、こうも嫌悪感を露わにされると、裁判の正当性が疑われる。

以下、書き抜いてみる。

「やはりよくなかったですね,完全に。弁護士さんのほうが指示をして,黙秘してくださいという感じでしたんで,やっぱり印象としてはよくなかったです。」(14頁)
「この被告人,黙秘権を使い,逃げおおせかけたけども,逃げられなかったということは,もう逃げ得,黙秘権使い放題の,まあ言うたらひきょうやなと思ったことはありました。被告人が上の人だったのに,男らしさがないとか,そう思いました。言うことはやっぱり言って,ちゃんと裁判に立ち向かってほしかったなとは私は思いました。」(同)

ひどいものである。「逃げ得」「黙秘権使い放題・・ひきょう」。
憲法的に成り立たない裁判だったと言うことになる。

因みに、主題からは逸れるが、こんな発言もある。
「(弁護人の弁論は)全部読んでもしょうがないなという感じでしたね。結局,ちゃんとした証拠じゃなくて,裁判員の方の心情に訴えるような感じの文面とかが多かったんで,ですから,そういう面では,もっとしっかりした,ちゃんとした証拠を出して,どうして無罪にしないんだという感じになれば,私たちもちょっと考えは変わっていたかもわからないですけどね。」(12頁)

立証責任の基本すら、理解されていない。

何故この議事録を取り上げたかというと、これが私が主任弁護人だった事案だからである。議事録を読むと、発言している2名の裁判員の限りでは完全な「落第弁護」であったという通信簿である。

事案は、被告人が事件を指示したかどうかが争点であった。検察側の最重要証人は、公判に於いてこれを否定したため、同証人が出所目前に実施された起訴前尋問(弁護人は立ち会っていないので裁判官と検察官しかいない)における供述が証拠採用され、ほぼそれ一本で有罪にされたようなものであった。
出所目前という餌を目の前にぶら下げられ、従前の供述を翻すと偽証罪で更に服役が長期化するかも知れないという心境から、虚偽自白を覆せなかった趣旨を証言されたのだが、そういう証拠の信用性評価はとにかく慎重に行うべきだという、「引っ張り込みの危険」に関する裁判例を要所で援用した(自己評価としては理論的な)弁論が、「心情に訴える」弁論に過ぎず、無罪証拠を出せていない、と言われると・・まあ、なにをいっても何とかの遠吠えには違いない。違いないが、憮然とはする。それが専門家の仕事だろうと言われると返す言葉も無いが、そこまで次元の低い学芸会紛いのことに付き合わなければならないというのも難儀なことである。

(弁護士 金岡)