前弁護人が保釈保証金を納付している場合に交代で弁護人を受任しても、保釈保証金そのものを引き継ぐことは無く、仮に実刑判決により一旦保釈が失効して再度の保釈手続を取る場合は、その了解を得て流用手続を取ることが一般である。
本欄本年3月17日では、その了解を得られず、あわや釈放が遅れるという事態を報告したところである。

考えてみれば、保釈保証金還付請求権とて、金銭債権であり、動かせないものではあるまい。弁護人交代後、前任から保釈保証金還付請求権を譲り受けて、還付先を自らの口座に変更してしまうようなことはできないものか。前記のような事態を避け、また、時に依頼者と紛争状態に陥っている前弁護人の関与をなくす上でも有用なことである。

ということを考えて、名古屋地裁に弁護士会照会をかけたのだが、「そのような手続はない」「保釈保証金還付請求権は、保管金規則3条により譲渡が禁止されている」という回答であった(名地裁総第867号回答書)。

保管金規則3条?ということで条文を見ると、「保管金ノ証書ハ売買譲与又ハ書入質入スルコトヲ得ス」とある。証書自体に債権が化体しているわけではないので、この条文は果たして任意譲渡を禁じた根拠になるのだろうか。今ひとつ、しっくりこない。
また、提供頂いた情報によれば、「保管金規則(明治二十三年法律第一号)第三条は、専ら事務上の便宜のため、保管金の証書につき、任意の処分を禁止した趣旨と解されるから、民事執行法による保管金返還請求権の差押えまでも禁止するものではないと考える。」という政府答弁(保釈保証金返還債権の帰属及び保管金規則第三条の解釈に関する質問に対する答弁書)があるが、差押えが可能なのに譲渡が出来ないとはこれ如何に。
結局、事務処理が面倒(「専ら事務上の便宜」)なので、法的根拠も無く任意譲渡できないと言い張っているだけでは無いのか、と思われるところである。差押えにより保釈保証金還付請求権の帰属が変動してしまう事態が想定されるなら、任意譲渡により同様の事態が生じることだけを禁止して、こちらに不便を押しつけることは正当化されまい。

なお、一般論として、弁護人が一旦指定した還付金受け口座を変更できないとは思われない(当該銀行が倒産した場合等を想定すれば良い)。とすると、前任弁護人が、後任弁護人名義の口座に還付金受け口座を指定替えすることは、任意譲渡の可否とはまた別次元の問題として検討できるように思われる。前記照会にはこのことも含めていたが、その点も含めて「手続はない」のが公式見解のようである。こちらも、所詮は事務処理が面倒なので勝手な決まり事を作っているのだろうと思われた次第である。

(参考:照会事項)
前任弁護人(辞任済み)が納付した保釈金について、前任弁護人が納付時に指定した前任弁護人名義の「還付金の振込先口座」を、前任弁護人の同意に基づき、後任弁護人である照会申出人名義の口座に変更する手続を御教示頂きたい。
不可能である場合は、その理由(譲渡が不可能な債権であるとか、裁判事項であり裁判官の独立した判断に委ねられている等)を御説明頂きたい。

(弁護士 金岡)