御紹介頂いた、違法捜査は認めたが証拠排除は認めなかった事例判決である。
未確定とのことなので、それを踏まえて取り上げたい。

事案を要約すると、「合図不履行」という道交法違反の現認に託けて、人定を要求し、応じなかったので窓ガラスを叩き割って現行犯逮捕し、その上で、車内を捜索して薬物などを発見した・・という流れである。
弁護人は、軽微な合図不履行事件により殊更現行犯逮捕したことは、別件捜査目的による無令状捜査目的であって権利濫用である等と争った。

裁判所は、合図不履行事件についてのみ許容される無令状捜索の範囲からすると、担当警察官が、人定に必要な財布等には目をくれず助手席荷物から捜索を始めていること等から、別件違法薬物所持の捜索「も」行っていたと認めるべきであるとし、菓子の箱やら手提げ鞄などを執拗に捜索していた状況からも上記疑念があるとして、違法捜査を認定した。
加えて裁判所は、担当警察官が「公判において、捜索に関し、合図不履行事件で捜索差押えしているので、それ以外の目的で捜索することもしていない」等と証言したことに対して、「自己防衛的な供述をして」いるとして、信用性を否定した。

このように、別件捜索差押えという公権力の濫用を行い、かつ、法廷で平然と嘘をついている警察官の捜索結果を、刑事裁判所は許容するのだろうか?という問題である。

判決はこの点について、「専ら余罪となる違法薬物等を捜索する目的であったとまで認められない」「自己防衛的な供述をしており、やや誠実さに欠けるところが見受けられるが、心情面はさておき、少なくとも客観的事実については偽っているわけではなく」等と擁護し、「手続逸脱(濫用)の程度は必ずしも大きいと断ずることはできない」「令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとはいえない。」「将来の違法捜査抑制の見地から証拠排除が相当であるともいえない」等とした(山田耕司裁判長)。

甘い。驚くほど甘い。と言うしかない。
「主として別件捜査目的」の程度に公権力を濫用し、法廷で嘘をついて、それでも、裁判所が捜査結果を許容する、というなら、最早、違法収集証拠排除法則など死んだも同然であろう。
「主として別件捜査目的」の程度に公権力を濫用し、法廷で嘘をついて、それでも、将来の違法捜査抑制の見地からおとがめ無しです、偽証罪の処罰もしません、というようなことを常識として持つのは、裁判官と検察官くらいなもので、そんじょそこらの中高生の方がまだましな判断をするだろうと溜息しか出ない。

(弁護士 金岡)