東京地裁立川支部2025年4月11日判決(中島経太裁判長)。
担当弁護人の布川弁護士・久保弁護士より御紹介頂いた事案である。
公訴事実は、4月と8月に、保育園職員が園児に暴行を加えて負傷させる等したというものである。
直接証拠は、同僚職員ABの供述のみである。
裁判所は、先行する4月事件に関し、AB間で供述を摺り合わせた疑いがある、A証言に顕著な変遷がある(自治体の調査では目撃していないと述べていたのに公判では目撃していたと証言する等)、客観証拠がない等としてAB供述の信用性を否定し、8月事件に関しても、上記に加え、今度はB証言の変遷(暴行態様が全く異なる等)をも指摘し、同様にB供述の信用性を否定し、無罪とした。
この判決を本欄で取り上げたのは、件名の通り、またも証拠隠しが発覚し、それが決め手となった無罪判決だったからである。担当弁護人によると経過は次の通りである。
上記ABは同僚であり、当然、LINE等で遣り取りしていることが想定された。そこで弁護人は、尋問前からLINE履歴の開示を請求したが、検察官は「不存在」とした。
そのまま尋問に突入し、B尋問において弁護人がLINE履歴を捜査機関に提出しなかったか確認すると「した」とのことであり、さらに警察官証人が「抽出して警察署にある。検察官からもあるか聞かれてあると答えたが関連性がないので送致しなかった。」と証言したため、審理は中断し、開示の上で改めて尋問を行うことになった。
なお、担当検察官は、上記事態に対する釈明内容を何度も変えた。具体的には、「抽出した警視庁が所轄に存在を引き継いでいなかった。」「プライバシーにかかわるものばかりで関連性がないので開示しない。」などと弁明していたという(前者は、前掲警察官証言に照らすと嘘である)。
以上のように、LINE履歴は意図的に不開示にされているが、その理由は、警察官も検察官も、口を揃えて「関連性がないものだったから」と言いたげである。
しかし、判決文を読むと、事実は真逆である。
即ち、4月事件に関して、裁判所がABの供述の摺り合わせを指摘していることは前述したが、AB間のLINE履歴では例えば、被告人の暴行に関するBのスケジュール帳メモなるものについて、ABが「これは4月じゃないよな?」「秋だと思う」「このメモ、4月の件にしよう」「電話していい?ちょっとまとめたい」等という、当該メモを4月事件のもののことにする口裏合わせが克明に記録されていた。
このような露骨な口裏合わせの証拠を入手しながら、「関連性がない」から開示しなかったなどというのは、全く無理がある。「犯罪的」といって過言ではない。
捜査官に取捨選択させない機械的な全面的証拠開示が実現しない限り、このような証拠隠しはなくならず、冤罪もなくならない。そう確信させる事例であり、特に紹介させて頂いた次第である。
因みに。
この担当検察官、御名前は平間文啓という。
平間検察官といえば、本欄「歴史に残すべき無罪事件」において、同時点の公訴事実を完全に破綻させるLINE履歴を入手していながら、それを隠して従前通りの論告を行い、有罪判決を騙し取った張本人である。
証拠隠しの前科者、常習犯というべき存在であり、こんな人物が未だに(名古屋の事件で然るべき制裁を受けることもなく)のうのうと法曹を続けていることが驚きである。
検察庁では、証拠を隠して有罪判決を騙し取る検察官の方が評価に値するのだろうか?だとしたら深刻である。
(弁護士 金岡)