若手弁護士からの珍妙な報告である。
第1回公判前の保釈請求を行い、検察官の立証予定を踏まえるべく証拠カードを疎明資料に用いたところ、検察官から次のような断固たる抗議があったという。
「弁護人は、本件保釈請求書に際し、疎明資料として検察官請求証拠の証拠カードを添付しているが、同証拠カードは、あくまでも、検察官が検察官請求証拠を開示するにあたり、事実上の便宜のため弁護人に善意で渡しているものにすぎず、未だ正式に証拠請求したものでもないのに、これを保釈請求書の資料として用いたことに、断固、抗議する。」(莊加奈子検察官)
全く理解に苦しむ内容であるが、何しろ「断固」たる抗議であるので、一応、検討してみる。
刑訴規則178条の2以下は第1回前の公判準備について規定するが、178条の6が証拠意見の準備について規定する。証拠意見を述べるには立証趣旨が明らかにされる必要があり、証拠カードはこれを担っている。
そうすると、証拠カードの交付は、刑訴規則が公判準備に要求する一内容であり、決して、「請求証拠を開示するにあたり、事実上の便宜のため」交付される、目録のようなものではないことが明らかである。
あるいは、この検察官は、「目録的カード」と「第1回前の公判準備としての証拠カード」を二種類、用意する人なのかも知れない。そういう特殊な場合に、「目録的カード」を勝手に使うな!と言うこと・・は、まあ、あり得ない事態なので考えるだけ無駄、割愛する。
真面目な話、我々の保釈請求は、証拠構造を看破することが重要になってくる。これは勿論、証拠カードがなくても相応に可能ではあるが、どうしても空中戦に陥りやすいので、証拠カードがあった方が望ましく、証拠カードがあれば罪証隠滅を疑うべき相当の理由の有無程度も、より具体的に検討できるというものである。
起訴当日でも、既に作成されているなら(私が京都地検で修習した折は、起訴検事が起訴状及び証拠カードまで作成していた)引き渡しを求めれば良いし、中身のある保釈の議論をするためには前倒しで要求して良い(検察官がこのような第1回前の公判準備を拒むなら、そのような妨害的態度を身体拘束の不利益に転嫁しないよう保釈の判断を求めて行く)。
以上、このような珍妙な、断固たる抗議に、惑わされる必要は全くない。
(弁護士 金岡)