穏やかに言っても「耳を疑う」程度のことは申し上げざるを得ない。
そういう弁護士側からの主張を報告する。

事案は、本欄本年5月「検察もひどいが弁護人も輪をかけてひどかった」として二度に亘り連載した案件である。
「刑事弁護に強い」を標榜する法律事務所所属の弁護士が、検察側の唯一の証人(身体拘束されていた共犯者W)の、供述録取書等の開示が一部に過ぎず、録音録画媒体の開示もなく、ついでに取り調べ状況報告書も開示されていないのに尋問に突き進んだことについて無反省である様を取り上げた。
後日談としては、本欄本年5月16日「高裁の証拠開示勧告文」のとおり、流石の高裁も重い腰を上げて第1審で開示されるべきであった証拠の包括的な開示を検察側に勧告した。なお、その結果として「さしあたり」開示された証拠点数344点、頁数2800枚以上となっている。

さて、この案件、原審弁護人が余りに無反省であったため、紛議調停を申し立てた。
非公開の手続であり、勿論、調停期日におけるあれこれを報告する気はないが、相手方の答弁内容は客観的な記録であり、取り上げて差し支えはないし、取り上げる意味があると思うので、以下、言及する。

紛議調停において、当方は「もし、検察官の1度目の任意開示対応では証拠開示不足だと気付いたなら、どうして再度の整理手続を申し立てるとかしなかったのか」を問うた。
これに対する相手方の答弁は「既に裁判所が公判前整理手続の申立てを認めないという判断をしている以上、再度公判前整理手続の申立てを行うことは、逆に訴訟遅延や妨害行為とも評価されうる」というものである。

・・いやはや。
いやはやとしか言い様がない。
「任意開示では不十分で尋問準備が出来ないから改めて付整理手続を請求する」、これが違法行為だと主張してくるとは。粘り強く証拠開示を求めて奮戦する全国の刑事弁護士に謝って欲しい。

もう一つ。
当方が「録音録画媒体や取り調べ状況報告書の開示請求すらしていない」ことの問題点を指摘したことへの反論。
「これらの証拠が開示されるかどうかも不明な上、開示されたとして結論に明らかに影響するといえる証拠ではない」「Wが証言を変える前の証言内容はWの供述調書という形で開示されている」

・・いやはや、いやはや、である。
供述調書が開示されているとしても、録音録画媒体を見なくて良いことにはならない。勿論、供述調書が作成されていない日の録音録画媒体もあるから、そこの供述経過は録音録画媒体が唯一無二である。
研修所はどんな教育をしているのか心配になるし、「刑事事件に強い」と標榜しながら可視化の歴史を知らないというのも流石に不味すぎるだろう。

前回も書いたが、こんなのに刑事弁護を担う資格を与えている弁護士会にも問題なしとは言えない。

(弁護士 金岡)