本欄を「散髪」で検索すると、接見等禁止と散髪にまつわる記事を三本、読むことができる。
一番古い2016年9月6日の記事では、浜松支部で散髪業者との接見等禁止部分が違法として取り消された準抗告事案(2014年1月9日付け決定)を紹介した。その後の2017年10月17日の記事では、この問題に関して栗原正史裁判官が「散髪業者はそもそも接見等禁止の対象外」と説明された論文を紹介している。最後の2023年8月8日の記事では、某単位会(特に濁す必要もないので言ってしまうと岡山である)では未だに散髪するのに接見等禁止の一部解除が必要だという話題を取り上げた。
接見等禁止の要件を、勾留のみでは抑止しきれない、実効性のある罪証隠滅の現実的蓋然性が高度な場合と定義するなら、散髪業者との面会がこれに該当する場合というのは皆無であることに異論はあるまい。
故に、前掲栗原論文は、「散髪業者はそもそも接見等禁止の対象外」と説くのであろう。
しかし現実には、そうなっていない。
それが、2014年の浜松であり、2023年の岡山である。
ちなみに、名古屋地裁の一審強化刑事部会で、2010年2月10日、弁護士会からこの話題が議題提出されたが、当時の名古屋地裁・地検は何れも「これらを対象から外すかどうかは,具体的事件の状況に応じ,個々の裁判官が判断することである。」と回答して議論に応じようとしなかった。名古屋地裁界隈から、散髪業者との接見等禁止という現象が消え失せたのはいつのことか、正確には分からないが、ともかく現在では駆逐されている。
話を戻すと、2025年7月の青森である。
青森の弁護士から、散髪業者との接見等禁止の一部解除を申し立てたので、浜松支部の決定が欲しいとの連絡を受けた。
勿論、御提供はしたが(無事に一部解除された由)、「まだそんなことをやっているのか」という思いである。接見等禁止中に散髪をしようとした被疑者・被告人が、十数年で一人しかいなかったということはあるまい。とすれば、どこかしらの弁護人が律儀に一部解除申立なり(準)抗告なりを行い、裁判所も、散髪業者が接見等禁止決定の対象であることを前提に大真面目に解除決定なり(準)抗告認容決定を行っているのであろう(勿論その陰には、端から諦めてしまった冤罪被害者が多数いるに相違ない)。
そもそも散髪業者が接見等禁止の対象になっていること自体がおかしいよね、と考え、行動に移す法曹関係者が誰もいなかったのか??と思うところである。
なお、担当弁護人より件の決定を見せて頂いたが、散髪業者A氏との間で包括的に解除する決定のようである。ということは、同じ店舗所属のB氏が担当の日に散髪希望を出すと、また解除の手続を取らなければならないということになるだろう。
実に実に馬鹿馬鹿しい。
(弁護士 金岡)