【1】
縁あって、表記の研究会に参加させて頂いた。
思えば、刑法学会や法と心理学会、日本福祉学会、法と精神医療学会、ついでに交通法学会など、様々な学会に入会させて頂いてはいるものの、めっきり機動力が衰えて地元で開催される学会すら、出席していない不心得者である(そういえばこの週末、名古屋市内で法と心理学会の大会があるのだがどうしたものか・・)。

ということで久し振りの純粋な学術研究を垣間見る機会であったのだが、第一の演題が「AI・ITと刑事法」という、現時点では仕事に関わってきそうにもないが、急速な技術の進歩から早晩、仕事に関わってくるかもしれない悩ましい問題であり、第二の演題は性犯罪関連立法や組織犯罪を扱ったものであった。
韓国側でも、性犯罪関連立法は例を見ない急速さ、且つ、範囲や重さにおいて過剰処罰が生じる危険があると危惧されていることは、日本でも同様の現象が正に生じていることを思えば、今後、相互に情報交換すべきではないかと思われた。

なお、この研究会の発足以来の実績が、公刊されるそうである。
(信山社「日韓刑事法研究Ⅰ」)

【2】
私の出番は、研究会本体ではなく、韓国の研究者が日本の刑事弁護実務について色々と聞いてみたいということで、そういう場を設けさせて頂いた、というものである。こちらからも韓国の刑事司法について知りたいことは幾つもあり、渡りに船であった。

教えて頂いたことで幾つか印象に残ったことを。

・ 韓国の被疑者国選制度は、逮捕段階からとすることこそ見送られたものの、勾留質問前に選任され、緊急逮捕状と疎明資料のような一定の範囲の記録閲覧権もあるとのこと。
勾留質問が令状審査のためであり、そこにこそ弁護が必要なのだから、言われてみれば至極ご尤もな制度設計である。何故、日本の被疑者国選が勾留質問後(勾留状発付後)なのか?説明出来ず、根本的な制度的欠陥に気付かされた。
日韓併合という負の歴史から、韓国の基本法は日本法と酷似する部分が多く、比較法的研究に馴染むという。しかし後述の身柄不拘束原則といい、大きく水をあけられている。

・ 韓国の接見室には、アクリル板がないとのこと。
日本における拘置所側の、悪意と言うべき弁護人敵視とは大違いである。

・ 韓国は法曹一元が採用されて、一定年数の弁護経験がないと裁判官になれない。期限付きで専門的に国選刑事弁護を扱う先端被疑者国選契約(用語の正確性は心許ない)が格好のキャリアになるそうだ。
法科大学院で教鞭を執られている研究者曰く、やはり、法曹一元後は、裁判官の人権意識に変化が生まれているのではないかとのことだった。

・ なお、韓国は刑事司法の電子化が進められているようだが、通訳の限界からか、その電子化された記録を被収容者がどのように刑事施設内で扱えるのか(扱えないのか)について、確答が得られなかったことが心残りである。
そもそも韓国は、捜査段階の身柄不拘束原則に加え、起訴後勾留が最大6か月しか認められないとのことなので、質問が例外的場面でピンとこなかった・・のかもしれないが、被収容者が、動画ファイルやPDFを再生するためのデジタルデバイスを刑事施設内で扱えるのかは是非知りたかった。

(弁護士 金岡)