【1】
「横断歩道での一時停止義務違反を理由に、愛知県警に身柄を拘束された同県稲沢市の司法書士の女性が、逮捕や留置は違法だったとして県に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は26日、逃亡や証拠隠滅の恐れがないのに留置を続けたのは違法と認め、県に16万5千円の支払いを命じた。」と報道された事案である。
面白そうだったので記録を閲覧してきた(閲覧申請してからすぐに代理人弁護士が判明したが、折角なので閲覧した)。裁判所、判決日、事件名(国賠等)、被告が愛知県、ということが分かれば、まあ閲覧に支障はない。

【2】
さて、事案は正確には、一時停止義務違反に基づく行政処分の取消請求、同処分が違法であることを前提した国賠請求と、身体拘束にかかる国賠請求とがされており、後者の国賠請求も、現行犯逮捕そのものの違法性と、現行犯逮捕が適法だとしても、勾留請求せず釈放まで(現行犯逮捕が22日午後3時29分、釈放が24日午前11時2分、何れも平日である)留置を続けた違法が主張されていた。
名古屋高裁が違法を認めたのは、上記のうち、留置を続けた違法部分なので、本稿も、この点に限って紹介する。

前提として、同女性は、(現行犯逮捕前の免許証提示が十分だったかには争いがあったものの)現行犯逮捕後、直ちに身体に対する捜索が行われて運転免許証を押収されており、運転免許証による人定が出来ていた上に、直後の取調べにおいても、被疑事実を否定しその余は黙秘とする一方、氏名、司法書士であること、N弁護士を呼んでほしいことを述べていたという事情がある。

軽微事犯で、社会生活上の地位が安定していれば、すぐ釈放すれば良い(というより、比例原則に照らせば、釈放しなければならない)のではないか、という問題意識は誰しも持つだろうが、愛知県警は、要旨、「免許証で人定は把握できたがあくまで免許証の記載が確認できたと言うだけで、自らは氏名も住所も語らなかったのだから」留置継続の必要性があった等と主張していた。
更に事実関係を付加すると、同女性はその後、警察から身内の連絡先を告げるように言われて司法書士事務所を経営する父親の名前を挙げ、22日夜には発熱のために病院を受診したがそこに同父親が来て担当警察官とも面談の上、病院代を支払っていた、という事情がある(N弁護士の接見は23日午前)。
このように、22日夜には、人定は十分すぎるほどになっており、それでもなお24日午前11時2分まで留置が続いたというところに事案の特徴があると言える。

第1審判決は、要旨、24日午前11時2分の釈放までに、将来の出頭確保を含む逃亡のおそれが消失するだけ特段の事情はなく、そのように判断したことに合理性が客観的に欠如しているとは言えないとした上で、22日夜の病院の時に、父親に身元引き受けさせて釈放したら良かったという指摘(24日に父親が身元引き受けをしている)に対しても、被疑事実を否認し黙秘する態度を総合的に勘案すると、留置の必要性相当性がなくなったことが客観的に明らかとは言えない、と判断して、留置を適法とした。

これに対し控訴審判決は、現行犯逮捕の適法性を認めた上で、他方、逮捕後、勤務先が明らかとなり現役司法書士だと判明した時点で、逃亡のおそれは著しく低下すること、警察官現認事案であり、被妨害者である歩行者も立ち去っていたから、実効的な罪証隠滅は想定しがたかった、として、遅くとも22日夜の病院の時点で、父親と面談しているのだから、仮に人定に疑義があるならそこで解消すれば足りた(が、そのような動き自体がなかった)等を指摘して、留置を続ける必要はなく、午後8時に病院から戻って、午後10時には釈放できたことから、そこから24日午前11時2分まで約37時間の留置は違法であると判断した。
その上で、担当警察官の主観についても言及し、女性の非協力姿勢から今後の出頭確保を懸念したのかもしれないが、司法書士が反則金9000円程度で理由なく出頭拒否して再逮捕の危険を招くことは考えづらく、呼ばれたN弁護士も協力するだろうから、客観的合理性を欠く、とした。

【3】
司法警察員による留置の判断と国賠責任の関係については、最二小1996年3月8日判決がある。
その判旨は「司法警察員による被疑者の留置については、司法警察員が、留置時において、捜査により収集した証拠資料を総合勘案して刑訴法二〇三条一項所定の留置の必要性を判断する上において、合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず、あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り、右の留置について国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。」というものである。

以下、本件に関する雑感を述べたいが、少々、長くなるので、後編に譲る。

(2/2・完に続く)