本来なら本欄本年12月1日掲載の国賠事案の続きを書きたいところだが、印象が新鮮なうちに掲記の研修について取り上げる。
過日、某単位会において、デジタル証拠を活用した刑事弁護についての研修を実施した。私は、スマートフォン等の解析技術者と共同で講師を務めたが、私がこの種の技術そのものに通暁していることは全くなく、何なら、LINEは一切使わない、裁判所のWeb会議も拒否して出頭する等と至って旧弊である(旧弊というよりは、「周りがそうするなら自分はそうしない」という斜に構えた性格に起因している気もする)。
ただ、距離を置くことと、使えないこととは勿論、同義ではなく、最低限の基礎知識や基本原理の理解に努めていることは当然である。大げさではなく、弁護士法2条「深い教養の保持と高い品性の陶やに努め」に忠実に、万が一にも後れを取らないようにしなければならない分野である。
さて、「ガラケー」が普及し、あっという間にスマートフォンに取って代わられたこの御時世において、大方の人は四六時中、スマートフォン端末と行動を共にしている。持ち歩けば、歩数計機能や(設定次第では)位置情報が記録される。触れば触ったで、何かしらの操作記録が残ったりする。端末側にも記録されるし、仕様次第ではサーバー側と通信してサーバー側にも記録が残る。このような記録は、その人がその時、何かしている(或いは少なくとも「それ」はしていない)ことを裏付け得る。 水掛け論に陥ることなく、ある時点の行動の有無を確定できることは、裁判実務において非常に重要であり、「家でごろごろしていただけ」であることすら、何かしらの電子機器と紐付いて裏付けられる可能性を秘める(まだ裁判上で見たことはないが、「アレクサ」のようなスマート家電の履歴なんかも、可能性を秘めているのではなかろうか)。
今回の研修を契機に振り返ると、実に十年以上も前から、ゲームのセーブ時刻が記録されていないか、とか、何時何分何秒にゲームの操作をしていたとか、そういったことで事実を確定させられないか、血道を上げていたことが確認できた。大手SNS業者から数千頁に及ぶ「アルファベットと数字の羅列」のシステムログの開示を受けて、その解読に取り組んだことは良い思い出である。
端末やサーバー履歴以外にも、デジタルカメラ(この関係では先日、名古屋高裁で逆転無罪判決を得たが、少し意欲的な実践を行ったので、確定後、本欄で取り上げる予定である)、防犯カメラ、カーナビ等等・・様々な電子機器が、事実の確定に活用し得る。その中には既に陳腐化した技術もあれば(ガラケーのメールの復元なんかは、今は昔であろう)、そうでないものもあるが、ともかくそういった、主として刑事弁護領域の発想や経験を提供させて頂いた。
研修は幸い好評だったようである。
面と向かって「つまらなかった」と言う人はいないだろうから、話半分にきいておかなければならないとは思うが。
(弁護士 金岡)

















