入管法改正案に対する研究者有志一同の声明を読んだ。
正式名称は、本年5月11日付け「国際法・国際人権法・憲法研究者有志一同」による「入管法改正案の審議において国際人権機関の勧告を真摯に検討し、国際人権法との合致を確保することを日本政府に求める声明」という。

現在、連日のように強行採決が懸念されている、入管法改悪案(空疎なため、裁判所による「広範な裁量論」と相まって入管の横暴を許す装置でしかない現行法を、少しでも良くしようとするどころか、更に改悪できるとは、下には下がある)に対し、草の根的な抗議活動、著名人の声明、研究者の声明など、日増しに反対運動が強まっている。

件名の声明を入手して読んだが、「現在、国会審議中の入管法改正案は、こうした入管収容のあり方を改善するどころかさらに悪化させるもの」という実に正しい現状認識を前提に、「主な問題点」として、
1.第1に、難民認定申請中の送還停止効の例外を導入することは、難民条約33条1項が定めかつ慣習国際法にもなっているノン・ルフールマン原則に違反する可能性がある。
2.第2に、退去強制令書が発付されても退去しないことへの罰則の創設に対する懸念である。
3.第3に、新たな「監理措置」制度に対する懸念である。「監理措置」が導入されても、主任審査官の裁量で認められた場合に限り例外的に適用されるにすぎず、収容が原則であることに変わりはない。このことは、収容は最後の手段としてのみ使用するという国際人権法の原則に反する。
と指摘している。

上記2項3項は、本欄2020年8月12日「報告書『送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言』を読む」で指摘したことと軌を一にしているので、ここで改めて批判を展開するものではないが、憲法上の基本的人権、手続保障の見地から、真顔で今回の改悪を「改正」と語られると、国会議員には当選後、憲法の試験を課し、きちんとした点数を取れるようになるまでは活動資格を与えないくらいの措置が必要なのだろうと思う。

ところで、恣意的な入管収容については、裁判所も「共犯関係」である。
捕まえる側(入管)が仮放免を審査するというどうしようもない構造は裁判所の責任ではないが、被収容者が、なんとか司法審査に持ち込んでも、広範な裁量論で取り合わずに来たのは裁判所である。裁判所がお目こぼしすると分かれば、入管の全件収容主義が横暴に加速することは論を待たない。故に共犯関係である。

私も過去に、仮放免の違法性を問うべく、国賠に持ち込んだことはあるが、全く相手にされなかったのが実際のところである。

いま、そのうち一事例の判決を紐解くと、こういう感じである。

X年1月    摘発収容(単純オーバーステイ)
X年3月    退令発付、その15日後に仮放免
X年6月    取消訴訟提起
X年8月    一子出産
X+2年8月  上告棄却、その5日後に仮放免更新
X+2年9月  再審情願、その3日後に仮放免不許可で収容
X+2年10月 仮放免不許可
X+2年11月 仮放免不許可、その5日後に在特義務付け訴訟提起
X+2年12月 仮放免
X+5年8月  在留特別許可

依頼者は、X年8月に長女を出産したところ、その父親は別に家庭があるため、昼間に遊び相手をしに来るだけで、夜は子どもの面倒は見られなかった(後述④)。依頼者が収容されると、父親は近所の同国人に長女を預け、昼間だけ相手をしに来ていた。
取消訴訟の上告棄却後も仮放免が許可され、また、2歳の子の監護者が依頼者1人であることを前提に、それでも裁判所は、広範な裁量論を振り回して、9月~12月の3ヶ月の本当に無意味な収容を適法だとした。

曰く。
①「入管法は,退去強制対象者の送還に備えた身柄の確保及び違法な在留活動の防止といった行政目的の観点から,送還が可能となるまでの間,退去強制令書の発付を受けて収容されている者の身柄を収容することを原則としているものと解される。入管法54条2項の仮放免の許可は,上記原則の例外的措置として, 自費出国若しくはその準備のため又は病気治療のため等身柄を収容するとかえって円滑な送還の執行を期待することができない場合や,その他人道的配慮を要する場合等特段の事情が存する場合に,一定の条件を付した上で一時的に身柄の解放を認める制度であり,同項の文言上,仮放免の要件は具体的に限定されているわけではなく,入管法上,仮放免の許否に関する判断を羈束するような規定も存在しないことを考慮すると,退去強制対象者の仮放免を許可するかどうかの判断は,主任審査官等の広範な裁量に委ねられているというべきである」
②「請求棄却判決が確定し,本件退令処分の適法性が確認されたのであるから,速やかに退去強制令書の執行を受け送還されるべき立場にあった・・仮に名古屋入管主任審査官が同日の時点で前訴判決の確定を了知していながら仮放免期間延長許可をしたものであったとしても,その約1か月後にされた再収容が違法となるものではない。」
③「本件仮放免期間延長不許可決定の時点以降,原告について,健康状態の悪化等,再収容の支障となる事情が存在していたとは認められないし,原告が再収容されていたのは,本件訴え提起後に行われた仮放免許可申請を受けて再仮放免がされるまでの3か月弱にすぎないのであつて,その態様等において相当性を欠くものであつたことをうかがわせる事情も見当たらない」
④「父は,上記同国人に長女を預けた上,毎日,長女の下に足を運び,長女を連れて原告と面会するとともに,長女と遊ぶなどして一緒に過ごしていたというのである・・原告が再収容される場合に長女の養育に当たる者が皆無となる状況が予想されたということはできない。」

これは2013年2月7日の名古屋地裁判決である(福井章代裁判長)。
①が、広範な裁量論である。手続法が不備だから広範な裁量がある、という、意味不明な論理を裁判所が提供する。入管法を変えるなら、まずは、入管の裁量を明確に羈束する方向に変えるしかない。その上で司法審査を導入することである。
②は、国側が取消訴訟敗訴の確定を理由に仮放免を不許可にしたというから、敗訴確定後に許可されていますけど?と反論したことを受けたものである。仮放免条件違反も全くない依頼者が、なぜ、敗訴確定後二度目の仮放免申請時に収容されなければならなかったのか、未だもって謎である。
③は、体調が悪くないなら収容しておいて良いという、有り難いお言葉である。身体を壊すまで釈放されないという仕組みは、憲法、国際法に恥じないものだろうか(仮放免許可義務付け請求を認容した裁判例が一つ知られているが、あれも、相当に体調を悪化させた末の案件であった・・今回のスリランカ人死亡事件は、「来たるべきものが来た」という感想しか持てない)。
④は、2歳の子どもがお母さんと離ればなれになり、近所に預けられていても、問題にならないとする内容である。慎重に言葉を選んで批判すると、頭がおかしい。

このような判決は、複数、受けた。
裁判所もまた、共犯者である。

(弁護士 金岡)