以前本欄で、愛知県弁護士会が独自に定めた、国選弁護人に対する鑑定費用助成制度のことを紹介したことがある。各地の研修でも羨ましがられる、誇るべき制度である。

近時、ちょっとした機会があり、他会の実情を少し覗いてみた。

千葉:大ざっぱに言うと、否認事件や責任能力事案で複数選任が認められない場合に、支援弁護士を選任し、支援弁護士に報酬の他、一定の実費枠(愛知に比べて割と少額)を認める。

大阪:国選事件や死刑再審等で、記録謄写費用、調査費用、鑑定費用、通訳費用、実験費用等、かなり手広く、支給対象としている(例えば医師の意見書費用についてみると、愛知と同等水準)。

香川:著しく困難な国選事件等で、調査費、鑑定費用、記録謄写費用、通訳人の報酬等を支給可能。手続的には割と大仰なものが要求されるようである。

札幌:国選事件について、専門的知見に基づく書面の費用として、一定の実費が支給される(愛知に比べて割と少額、千葉と同水準)。

対象事件、対象費目、金額、多種多様である。

経済的な制約があるので無尽蔵に何でもかんでもとはいかないだろうが、ある程度は冒険的試みも必要であり、お金がないがために防御を尽くせませんでしたという事態を良しとできない弁護士会としては、なんとかは喰わねどの精神で、対象事件は広く設定すべきだろうし(、それ以外の余計な縛りをかけるべきでもないだろうし)、対象費目も幅広に見ておくべきだろう。

もとより、「裁判所に採用させろ」という指摘はあるだろうが、(捜査段階は無理だし、)形になるまでは表に出せない性質のものもあるだろうし、裁判所に幅広な採用は期待できない(冤罪再審の歴史は、「裁判所がちゃんとやってさえいれば」の歴史でもあろうが、寡聞にしてかどうか、裁判所が必要な証拠調べを怠ったために冤罪に至ったことを詫びた試しがないから、「その時々の判断として問題なかった」「何も悪くない」と思っていらっしゃるのだろう)から、そのような指摘はあたらない。

また、「法テラスに出させるべき」は正論だが、「経済的な制約は弁護権の合理的制約事由だ」と述べて憚らないお役所に期待することにも限界があるし、そもそも制度が追い着いていない間の被疑者被告人の弁護権が蔑ろにされて良いはずもない。

従って、弁護士会の踏ん張りどころである。単位会間で、お互い情報を共有し合い、救済できなかった事例や、逆に効果的にはまった事例を出し合うなどすれば、より議論が深まるのではないか。

因みに。これは決して非難めいて言うのではないが、高裁所在地の単位会でかかる備えがないのは、ひょっとすると福岡だけかも知れない、と判明した(広島は未調査だが)。

先駆的な福岡にしては、ちと、意外である。

本稿を契機に(というと高いところからの物言いになってしまうが)議論して頂けると何よりである。

 

(弁護士 金岡)