名古屋地検が、本欄の記事を名古屋地裁の一審強に議題提出して、貶めようと画策した、という出来事が発生した。私に直接言うのではなく、私が不在の一審強に言いつけるあたり、浅ましいというか姑息というか、寧ろ憐れみすら感じる行動である。
しかし、最早、検察庁全体の識見を疑うべき問題行動には違いないので、今回はこの問題を取り上げたい。

なお、その出来事は2025年6月(第196回)に発生したが、正式な議事録が会員に公表されるまでは記事にするのを控えていたため、この時期の掲載となった。

まず簡単な経過であるが、一審強の提出議題は事前に関係者に開示される。
事前開示の段階では、「とあるブログ」は特定されていなかったが、この界隈で活発な刑事弁護のブログといえば本欄になるので、当然、私にも情報は入る。多分これでしょうということで、こちらから該当と思しき記事を特定し、それを受けて弁護士会関係者から検察庁に議論の前提としてブログを特定するよう要求、相当抵抗されたものの、結局、該当ブログが特定された。
もし、該当ブログを特定しないまま一審強で議論しても、当該記事に問題があるのかどうかや、どういった証人を取り上げたものか等が把握できないままの議論となり、当然、的外れな議論に陥るだろうことを思うと、該当ブログの特定を渋った名古屋地検の態度は、該当ブログ自体を批判することが出来ないので(後述の通り、弁護士会は全く取り合わなかったし、名古屋地検も、該当記事の内容に誤りがあることを説明出来なかった)、さも、私に非があるような印象付けを狙ったものだろうか。そうだとすれば、尚更、さもしいことである。

さて、その該当ブログは以下である。
https://www.kanaoka-law.com/archives/1730

要するに、専門家証人として裁判員裁判に検察側から出頭した井原哲医師が、事前カンファレンスと公判とで相反する説明をしたことから、事前カンファレンスの録音を法328条に基づき請求し、裁判所が同条に基づき証拠採用した(=相反性が認定された)ことを報じたものである。

中立公正であることが求められる専門家証人は、当該分野で複数の裁判において証言することも予想され、各裁判毎に違う説明をしないよう、厳重に監視されるべきであるから、その公判情報を広く共有することは、公開裁判原則(憲法82条)の趣旨に叶う(本欄の趣旨からは逸れるが、証言予定開示の段階で他の鑑定例や証言例があると判明すれば、その開示を受けておくことが高度に推奨されることも、付け加えておきたい)。
この理は、本欄の顕名/匿名基準(https://www.kanaoka-law.com/archives/1110)においても詳しく説明している。

当然のことであるが、井原哲医師が御用医者であると述べているわけではなく、専門家証人として出廷する以上、その趣旨で監視を受けるべきことは当然である、ということを述べているわけである。

さて、名古屋地検がどのような議題を提出し、どのように趣旨説明をしたか等は、半年以上を経て、漸く、公開された。協議自体は2025年6月17日(第196回)であるが、その公開(愛知県弁護士会の会員専用ページの他、会報にも掲載される)を待って詳報出来るようになったことは、冒頭記載の通りである。
長くなるので、以下、全文を掲載し、議論に亘る意見は次回、掲載する。例のごとく、項番は便宜のため、私が付した。

【全文】
第一審強化方策名古屋地方協議会刑事部会協議結果要旨 第196回(令和7年6月17日)524(検察庁提出議題)

(裁判所に対し)刑事弁護人が、係属中の刑事事件について、証人尋問の機会ではなく、インターネット等を介し、証人等の個人を特定した上で、その証言内容等を批判することは、証人を萎縮させ、証言内容に不当な影響を与える可能性が否定できないことから、公正な裁判を実現するためにも、前記のような個人攻撃にもなりかねない事実が発覚した場合、事件係属中の裁判所として、何らかの対応をされることがあり得るのか、伺いたい。
(弁護士会に対し)弁護士が、個人のブログ等で、係属中の刑事事件について、経過等を発信することがあるところ、その際、証人等関係者の氏名を特定した上、その証言内容等を批判する記載が見受けられた。そのような記載は、証人となる一般人に対する個人攻撃にもなりかねず、将来的にも、証人、特に専門家証人が出廷を躊躇したり、その証言内容に不当な影響を与えたりする可能性が否定できないものである。弁護士会において、係属中の刑事事件について、インターネット等を介し、個人を特定して批判するような内容を発信する行為に対し、何らかの指導等をされてい るのか、伺いたい。
(出題趣旨)刑事事件において、❶証人の証言内容等に関する批評は法廷内で行うべきであり、法廷外において、個人を特定して証言内容等を批判することは、いわゆる場外乱闘的な行為である上、❷刑事裁判に協力してくれる証人等を萎縮させ、証人出廷を躊躇させたり証言内容に不当な影響を与えたりする可能性も否定できないことから、弁護士会及び裁判所に対し、その問題意識を共有した上、このような行為が適正な刑事裁判の実現に与える影響について意見をうかがいたく、議題として提案する次第である。
近時、専門家証人の証言内容について、❸以前に聴取した内容と証言内容が異なっているなどと批判し、その証人の人格まで辱めるような記述をしたインターネットブログの記事が、当該事件の弁護人名義のアカウントにおいて、証人の実名を明示して公開された事例があったため、このような提案をするものである。今後同じようなことが起きる可能性もあるため、一般論としてご意見いただきたい。

裁判所
貴庁の問題意識は承っておくこととするが、個別具体的な事情に応じて検討することになるため、一般論として回答することは困難である。

弁護士会
表現の自由(憲法21条1項)は、最大限に保障されなければならない。❹裁判所の手続を国民の監視下に置くことにより、司法の公正適正な運用の実現を図るという裁判公開の原則(憲法37条1項、82条)の趣旨にも照らすと、当該刑事事件の弁護人はもとより、国民が証人の証言内容等を批判することは当然に許されるべきである。❺特に専門家証人の証言は、刑事裁判の帰趨に大きな影響を与え得ることから、その証言内容はより多くの国民に吟味されるべきであり、そのようなことこそむしろ公正適正な刑事裁判の実現に資するものといえる。したがって、一般論として、会員である弁護士が係属中の刑事事件について、インターネット等を介し証人の証言内容等を批判するような内容を発信したからといって、弁護士会が指導等はしていないし、する理由もない。

検察庁
このような問題があることを認識していただき、今後どういう形で対応していくのか、それぞれの課題にできればと思っている。個別具体的に検討する事柄であるとの裁判所の回答や、専門家証人の証言が国民の監視下で吟味される対象であるという弁護士会の回答は一般論として理解できるが、❻例えば、証人の証言内容を冷静に批判するのみならず、同証人の人格まで傷つけるような表現が用いられることに問題はないか、あるいは❼証言内容を批判するにしても、当該証人の実名まで挙げる必要があるのかといった点で、証人に対する個人攻撃まで踏み込むということになると、回答にあった一般論とは異なる問題が含まれるのではないか、という問題意識で提案したものである。もとより、この場で何らかの基準が示されることまで求めるものではないが、❽裁判に協力していただく国民に、裁判所に出頭するとこのような目にあうという印象を与え、国民の協力を得られにくくなるという環境を作ることは、法曹三者のいずれにとってもメリットのあることではないのではないか、ということを当方の意図として申し上げたものである。

弁護士会
当該ブログの内容が問題なのかという点は、議論をする上で重要なことだと思われる。検察庁から事前にどのブログが対象であるかは弁護士会に伝えられているが、当該ブログの内容に事実関係として何か誤りはあったか。

検察庁
この場で個々の事件に入り込むことの是非については判断がつきかねるが、当該ブログは公判廷外で当該証人が発言したことと証言の内容が異なっている点をかなり大きな問題としていると認識している。当該ブログでは録音体まで公判廷で再生したという指摘がされているが、❾当該事件の裁判所は、当該証人の公判廷外での説明と公判廷の証言の中身にそごはないとの判断であったことから、弁護人の立場から述べられた指摘としても、客観的なものではないといえると考えている。

弁護士会
❿ブログに書いてある事実関係が正しいのであれば、ブログで書かれているような批判は当然に起こりうることであって、なぜこれが問題とされるかそもそも理解できないという問題意識である。特に、専門家証人は自分の専門的知見に基づいて証言をする者でありその証言の当否は公共性に関わるから、目撃証人のような一般証人とは切り分けて考える必要があるのではないか。それに、当該ブログはあくまでも法廷内で起きたことを書いているだけであり問題がないと考える。
【引用終わり】

(2/2・完に続く)

(弁護士 金岡)